首脳会談でようやくスタート地点に立った日中
中国国内情勢を見極めて対話を進めよ


小谷哲男 (こたに・てつお)  日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

安保激変

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11月10日に開かれた日中首脳会談について、識者の評価は割れている。積極的に評価する石平氏に対し、「やるべきだったのか」と疑問を呈する富坂聰氏。また、佐々木智弘氏は会談実現に至った中国側の事情を、『人民日報』をもとに解説する。本記事では、会談によって日中がスタート地点に立ったと一定の評価をしながらも、今後対話を進めていくうえでの不安要素を指摘する。

 11月10日午後、APEC首脳会合が開かれている北京で、安倍晋三総理大臣と習近平国家主席が初めてとなる日中首脳会談を行った。両者の背後には両国の国旗もなく、握手の際に笑顔もない、ぎこちない会談ではあったが、日本の総理と中国の主席が公式に会談を行うのは実に3年ぶりである。安倍総理は就任以来「対話のドアはオープン」と日中首脳会談を呼びかけてきたが、中国側は日本政府が尖閣諸島の領有権問題が存在することを認めることと、安倍総理が靖国神社を参拝しないことを対話の前提条件とし、事実上これを拒んできた。今回首脳会談が成立したのは、7日に日中関係の改善に向けた4項目について両国の意見が一致したからである。外務省が発表した内容は次の通りである。

1 双方は,日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し,日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した。

2 双方は,歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。

3 双方は,尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し,対話と協議を通じて,情勢の悪化を防ぐとともに,危機管理メカニズムを構築し,不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。

4 双方は,様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して,政治・外交・安保対話を徐々に再開し,政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見の一致をみた。

 要約すれば、両国は歴史認識と領有権について、”agree to disagree”つまり双方の見解が一致しないことを認め合い、その上で対話を再開するということである。両首脳も会談でこれを確認し、防衛当局間の海上連絡メカニズムの実務協議が再開される見込みである。

日本側は何かを譲ったわけではない

 実は、今回日中両政府が発表した文書には4つのバージョンが存在する。日中が協議のベースとした日本語版に加えて、中国の外務省が訳した中国語版、さらに日中それぞれが作成した英訳版があり、それぞれが、細部の表現やニュアンスで異なっている。特に、日中が異なる見解を有しているとされた東シナ海の緊張状態について、日本側の文章が「海域」をめぐって緊張が発生しているという表現になっているのに対して、中国側は「島」をめぐって発生していると表現している。つまり、日本側は中国の政府公船が領海に侵入することが緊張を生み出していると理解しているのに対し、中国は日本政府による尖閣諸島の購入が緊張を生み出したと解釈しているのである。

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「安保激変」

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小谷哲男(こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

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