WEDGE REPORT

2014年11月25日

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林えり子 (はやし・えりこ)

作家

著書に『清朝十四王女 川島芳子の生涯』(ウェッジ文庫)や『暮しの昭和誌』(海竜社)、『江戸・東京通物語』(ソフトバンククリエイティブ)等がある。

 九十九里浜は、雨は上がったものの、はるか遠くに見えるはずの太平洋の水平線は白泥色にかき消され、三角波が荒々しく砂浜に打ち寄せていた。好天ならサーファーが集い、バーべキューを楽しむ人たちで賑わう人気スポットも、今日は人っ子一人いない。

 でも、負け惜しみじゃないが、図らずもシュール絵画のような荒涼とした鈍色一色の世界と遭遇でき、人を寄せつけない大海原の凄さに感動の歓声を上げたものだ。

 その余韻を崩さぬよう、そんな心配りをしたのかしらと穿ったのだけど、村井駿介さんは音もなく立ちあらわれた。その少年の面影が残る日焼けした丸顔が、なぜか、先刻見た大海の茫洋さを鮮やかに思い出させたのであった。

 九十九里浜一帯は鰯漁で名を馳せてきた。江戸時代には肥料の干鰯としての需要で繁栄するが、漁船の大型化に備える良港が整わず徐々に衰退、現在は農業と観光が、地域経済を支えているという。

 しかし、後継者たるべき若い人たちは、御多分に漏れず都市へ吸い取られ、町の先行きに影を落とす。

 そうした現状を好転させるには、地元に密着して地元ならではの仕事をつくりだし、成功させるしかないと、起ち上がったのが、村井青年だった。

村井駿介さん

 若い九十九里浜っ子は、一人で大海をこぎ出し、起業にこぎ着け、いま成功の手ごたえを見いだしている。そして自身のホームページでこう呼びかける。

 「田舎に埋もれるのでなく、田舎の環境を最大限に活かす仕事を見つけよう」

 “田舎の環境”とは、彼の場合は農業以外の何ものでもなく、中学生の頃には「生涯の仕事は農業」と決めていた。

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