東大教授 浜野保樹が語るメディアの革命

2009年8月7日

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浜野保樹 (はまの・やすき)

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

1951年生まれ。工学博士。コンテンツ産業や制作に関する研究開発に従事する。主な著書に『大系 黒澤明』(講談社)『偽りの民主主義』(角川書店)『表現のビジネス』(東京大学出版会)などがある。(財)黒澤明文化振興財団理事、文化庁メディア芸術祭運営委員ほか。

 これまで、我々は広告の存在によってコンテンツを安価に享受することができたが、広告に依存するテレビ、新聞、ラジオ、雑誌の「4マス」媒体は、いま曲がり角にきている。この4マスに共通するのはニュースやバラエティーなど、時間が経過すると価値を減じてしまうものを提供していることで、そのために対価を広告で肩代わりしてもらう合理性があった。無料か安価ならユーザーは利用するし、大勢が利用するからこそ消費が拡大してゆく社会では広告の意義もあった。しかし近年では、明日には必要なくなるものに高額な対価を払おうとはしないため、後発のラジオやテレビは無料を実現し、最近では新聞や雑誌も無料のものが出ている。

 4マスにおける広告モデルの崩壊は、消費構造の変化に加え、インターネットの影響によるところが大きい。インターネット革命の本質は、情報伝達にかかる費用、時間を限りなくゼロに近づけるということだ。つまり、そのため、誰にでも情報提供ができるようになり、広告も誰でもできるようになった。たとえば、就職や住宅、割安商品など、どうしても入手したい情報ならば、ユーザーが主体的に情報を探ってくれるため、もうマスメディアに依存する必要もないのだ。

 すでにラジオ、雑誌の広告費はインターネットに抜かれ、新聞が抜かれるのも間もなくだろうと言われている。しかしインターネット広告が大きな利益を上げられるわけではない。インターネットは参入障壁がないため価格破壊的であり続けないと存続できず、競争が激烈で利が薄い。一方、大きなコスト投入が要される装置産業として参入障壁が大きく、大きな利益を享受してきた4マスでは、インターネットのようなロング・テールビジネスは難しい。

CDなき世界の音楽ビジネス

 こういった大きな変化はなにも4マスだけに起こっているのではない。他の分野でも同じことが起こっている。音楽分野のビジネスは常に時代のニーズを先取りするため、まず音楽で起こったことが、他の領域に波及することが多い。その一例が、インターネットを通じて音楽を提供する音楽配信である。2006年には、有料音楽配信の売り上げがシングルCDを越えている。

 それ以前からエイベックス・グループ・ホールディングス(株)(以下avex)はCDが1枚も売れなくても生き残れる体制を目指してきたと、同社の幹部はいう。創業から20年の、音楽業界では新参のavexが音楽業界で売上げ1位を占めているのは、そういった過去の事例に捉われない目標設定にもあるのだろう。

 紙媒体の伝統やインターフェースの良さなど、いろいろ理由はあるだろうが、avexに倣うなら、新聞紙がなくても維持できる新聞社、冊子体がなくても維持できる出版社は、どのようにしたらつくることができるかということを自問する必要があろう。そんなことは言われなくとも当事者は百も承知だろうが、業界人に会う度に私はこのことを聞いてみる。しかし、すべてがなくなることはないとか、自分が退職するまでは持つだろうとかいう答えしか返ってこない。

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