WEDGE REPORT

2009年8月24日

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佐伯啓思 (さえき・けいし)

1949年奈良県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専攻は社会経済学。社会思想史。『大転換―脱成長社会へ』(NTT出版)など著書多数。月刊WEDGEにて連載「デジャブ~立ちすくむ現代」を執筆中。

 すったもんだしたあげくに、ようやく衆議院の解散、8月30日の総選挙となった。本稿を書いている段階ではその結果はわからない。世論調査によると、民主の圧勝、自民の大敗はまず揺るがない情勢である。

 小選挙区制は、どうしても、得票差以上の議席数の差をもたらすので、ひとつの方向へ流れができてしまうと、結果はそれを増幅したものとなる。4年前の小泉首相による郵政選挙では自民が「地滑り的」に大勝したが、今回は民主党の「地滑り的」大勝となるものとみられている。

 奇妙な選挙ではある。麻生首相が大きな失政をしたわけではない。民主党が何か強力な政策を打ち出しているわけでもない。民主党は、二大政党政治の実現によって政策選択の選挙が可能となる、と力説していたが、今回の選挙で大きな政策的論点が争われているわけではない。ただ、むき出しの政権交代の可否が争われるという何とも「わかりやすい」選挙となってしまった。

 自民党をここまで追い込んだものは、民主党というより、自民党の内部抗争であり、内部分裂であった。前回の参院選もそうだった。当時の安倍首相には特に失政もないにもかかわらず、新聞調査の支持率の低下が伝えられると、自民党内部から「首相下ろし」が始まるのである。有力な党員が内閣を支えようとしないというのでは、確かに自民党には政権維持能力がなくなっている、といわざるをえない。

原体験が麻生首相を「解散」に向かわせた

 今回の分裂や抗争をもたらしたものは何か。それは、まずは小泉改革であった。郵政民営化に至る小泉構造改革は、自民党をふたつに割ってしまった。郵政民営化の評価はふたつに割れ、構造改革は日本経済に大きな痛みをもたらしたからである。麻生首相の歯切れの悪さの一因は、小泉改革に反対であるにもかかわらず、小泉内閣において総務大臣の立場にあって郵政民営化にかかわったからであろう。確かに、小泉元首相は、自民党を壊してしまったのである。

 ここにおもしろい記事がある。4年前、郵政法案の参院採決のほぼ1時間前、官邸執務室で小泉首相は麻生氏と向き合っていた。麻生氏が、今度、選挙に打って出て自民党は民主党に勝てるのか、と聞いた。

 当然、「勝てる」という答えを期待していた麻生氏に帰ってきた言葉は、「それは博打だよ」というものであった。麻生氏は驚いて尋ねた。選挙に踏み切るのは民主党と政権を争うためではなく、内なる抵抗勢力を一掃するためなのですか、と。答えは「うん」。続けて首相はいった。「麻生さんは明智光秀にならないでくれよな」。(朝日新聞2005年8月16日付「政態拝見」)

 実は、この記事は、麻生氏の回想から始まっている。それはほかでもない、彼の祖父の吉田茂の内閣総辞職である。1954年12月のことであった。造船疑獄やそのワンマンぶりで世論の支持を失っていた、当時、自由党の党首である吉田首相に内閣不信任がつきつけられた。

 吉田首相は、当初、衆議院解散、総選挙を決めていた。しかし、側近たちにいさめられ、結局、総辞職の道を選んだ。そのことを後々まで吉田は悔やんでいた、というのである。そして、実は、この吉田の総辞職が、後の自民党誕生へとつながってゆく。

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