WEDGE REPORT

2015年7月3日

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 アラブの盟主エジプトのシナイ半島で、過激派組織イスラム国(IS)の分派が警察署を襲撃するなど活動を激化させ、ピラミッド観光など同国の観光産業に大きな打撃を与えている。エジプトの政情不安は、ISの「ラマダン・テロ」指令が信奉組織へ深く浸透していることを浮き彫りにしている。

旧約聖書の地にテロの嵐

 エジプトのシナイ半島は旧約聖書の舞台だ。預言者モーゼがユダヤ人の奴隷を率いてエジプトを脱出し、神から約束された「乳と密の流れる地」カナン(イスラエル)にたどりつくまでさまよった場所である。モーゼはその途中、シナイ山で神から「十戒」を授かる。最近の映画、「エクソダス」でご覧になった方も多いと思う。

モーセが神から十戒を授かったとされるシナイ山(画像:iStock)

 このシナイ半島に最近、テロの嵐が吹き荒れているのだ。嵐を巻き起こしているのは、ISの分派組織「シナイ州」である。シナイ州は1日早朝から、首都カイロからスエズ運河を越えて約180キロ離れた同半島北部の町、シェイク・ズエイド一帯に攻撃を仕掛けた。同町の周辺の軍検問所、警察署など約20カ所を襲撃、兵士や警官、住民ら70人を殺害した。

 アラブ最強のエジプト政府軍が戦闘機や戦車などを出動させて反撃したが、戦闘は完全には収束していない。エジプトでは2011年の「アラブの春」で30年という長期独裁のムバラク政権が崩壊。イスラム原理主義組織「モスレム同胞団」出身のモルシ政権が誕生した。しかし、1年後に軍がクーデターでモルシ大統領を追放し、昨年、国防相だったシシ将軍が大統領に就任した。

 治安が比較的安定していたエジプトで、こうした過激組織が公然と大規模なテロ攻撃を仕掛けるのはここ数十年で初めてだ。軍スポークスマンは「エジプトは(ISに侵略されている)イラクではない」としているが、看板の「治安の安定」に真正面から挑戦を受けたシシ政権の衝撃は限りなく大きい。

 エジプトの政情は事実上の軍事政権であるシシ政権になっても改善されたとは言えない。6月の29日には、カイロで出勤途中のバラカト検事総長の車列が道路脇に仕掛けられた爆弾の攻撃を受け、同検事総長が死亡した。また同じ6月、エジプト観光の名所であるギザのピラミッドのほんの近くで警官が襲撃され2人が死亡、さらには南部のルクソールのカルナック神殿近くで銃撃戦があり、イスラム過激派数人が射殺されるなどテロ事件が相次いでいる。

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