国土と日本人

2015年7月28日

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大石久和 (おおいし・ひさかず)

国土技術研究センター国土政策研究所長、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)国土委員会委員長

1945年、兵庫県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。同年、建設省入省。建設省道路局長、国土交通省技監等を歴任。京都大学大学院経営管理研究部特命教授、公益社団法人日本道路協会会長等を兼務。著書に、『国土が日本人の謎を解く』(産経新聞出版)、『国土と日本人』(中公新書)、『築土構木の思想ー土木で日本を建てなおす』(共著、晶文社)。

 かつて国土庁(現在は国土交通省)という官庁があったとき、その政策機関誌は「人と国土」というものであった。これをうまい命名だと思ったのは、政治や行政の対象領域は人と国土だからである。

 保育・教育・福祉・医療など多くの国政施策は「人」に関するものであるし、「国土」についても同じことが言え、道路・空港・港湾・鉄道などの交通インフラをはじめ、治山・治水などの自然災害防御も、国土を対象とした政治や行政の領域である。

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 人に関するものも国土に関するものも、その多くが「利潤動機」だけではサービスされることのないもので、公共が主体として関わらなければならないものばかりといってもいい。つまりは、「みんなで、みんなのために」やらなければならないことなのである。人が政治や行政の対象であることはわかりやすい。そのためにこそ、最も基本として行政は人の戸籍を管理している。

 新しい政治が始まるときには戸籍を新たに確認してきた歴史がある。律令国家の初めには庚午年籍という戸籍を整備したし、明治に入るとその初期に壬申戸籍を作成した。庚午年籍がなければ、大和朝廷は口分田の配分も米作からの税収も確保できなかったし、壬申戸籍が整備されることで地租の導入ができ、明治政府の財源が安定したのだった。

ずさんな土地の「戸籍管理」

 人についてはこのようにしっかりとした施策が打たれてきたのだが、問題なのは政治や行政の対象であるべき国土についてである。土地の「戸籍管理」がずさんなのである。

 地籍とは耳慣れない言葉かも知れない。これは土地に関する戸籍とでもいうべきもので、「地籍が確定している」とは、「一筆ごとの土地について、所有者、地番、地目、境界、面積が確定している」ことを意味する。(一筆とは土地の登記の単位)

 この地籍確定がわが国ではあまり進んでいないのである。表は、国土交通省が公表している地籍調査の実施状況、つまり地籍の確定状況を示している。全国平均で51%しか進捗しておらず、人口の多い都市部のDID(人口集中地区)ではわずか24%だし、林地も低く44%となっている。(2015年3月現在)

 これは、都市部などの土地では「境界、面積、所有者などについて争いの可能性」を有していることを示している。地籍確定率は大都市部ほど低く、東京22%、神奈川13%、千葉14%、愛知13%、大阪10%、京都8%などとなっている。

 国土交通省は地籍未確定のリスクを次のように説明している。

 ①土地の境界が不明確であるため、土地取引などを行う際にリスクを抱えることになる。

 ②都市再生への支障となる。(面的な開発事業を計画しても、土地の境界確認などに時間がかかりすぎる危険がある)

 ③災害復旧の遅れの要因となる。(災害復旧は土地の境界確認から始まる)

 ④公共用地の適正管理の支障となる。(市町村などが管理施設の用地境界が不明確であることがあり、管理範囲を精確に把握できない)

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