古都を感じる 奈良コレクション

2009年10月14日

»著者プロフィール
著者
閉じる

西山 厚 (にしやま・あつし)

帝塚山大学教授、前奈良国立博物館学芸部長

帝塚山大学文学部文化創造学科教授。前奈良国立博物館学芸部長。徳島県鳴門市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。奈良国立博物館では「女性と仏教」など数々の特別展を企画。主な著書に『仏教発見!』(講談社現代新書)、『僧侶の書』(至文堂)など。日本の歴史・思想・文学・美術を総合的に見つめ、書き、生きた言葉で語る活動を続けている。

 大仏はなぜ造られたのか。

  それは大仏を造った本人に尋ねるのが一番いい。今から1266年前の10月15日、聖武天皇はその理由を明瞭に語ってくれている。その日に出された「大仏造立の詔(みことのり)」を読めば、聖武天皇が大仏を造ろうとした理由がはっきりする。

奈良・東大寺の大仏 天平15年(743)10月15日、聖武天皇により発せられた「盧舎那仏造顕の詔」によって造立された.
(C) JTB Photo Communications,Inc.
*禁転載

 徳もないのに天皇になった。一生懸命やってはいるが十分ではない。仏教の力でなんとか天地をゆたかにしたい。聖武天皇はこのように語り始める。そして、次に注目すべき言葉が来る。

 「万代(ばんだい)の福業をおさめて、動植ことごとく栄えむとす」。すべての動物、すべての植物が栄える世にしたい。人間だけではない。そのほかの動物も植物も、みんなが栄える世にしたい。だから大仏造立を決意したと聖武天皇は言う。驚くべき発言である。

 すべての動物、すべての植物が、ともに栄える世の中。そんなものがこの世に存在し得るとは私にはとても思えない。しかし、聖武天皇は本気で夢見ていた。大仏造立はそのために決意された。詔は続く。

 「それ、天の下の富を有(たも)つは朕(われ)なり。天の下の勢(いきおい)を有つ者は朕なり。この富と勢をもって、この尊き像を造らむ」。

 有名な箇所である。天下の富と権力を持つのは私だ。その富と権力で大仏を造ろう。教科書などにも引用されることが多い箇所である。その次の文章を読めばわかるように、聖武天皇は富と権力で造るのはだめと本当は言っているのだが、どうもそのあたりが誤解されているように思う。大事なのは次の文章である。

 「事成り易く、心至り難し」。富と権力で造るのなら簡単だが、それでは心がこもらない。だからだめだと聖武天皇は主張する。ではどうするのか。

 大仏造立に関わる人は、一人一人が自分の盧舎那仏を造るように。造っている最中から、日に三度、盧舎那仏を拝みなさい‥‥。不思議な言葉である。しかし、聖武天皇がめざすところがわかるような気がする。

 詔はさらに続く。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る