世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年11月30日

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 10月23日付ワシントン・ポスト紙は、習近平訪英でキャメロン首相は中国に「身売りしている」との社説を掲げ、習近平訪英の際のキャメロンの対応を厳しく批判しています。これに対し、駐米英大使は、10月28日付で同紙に反論を寄稿しています。

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 WPの社説の論旨は次の通りです。

 すなわち、訪英した習近平は、エリザベス女王同行、馬車でバッキンガム宮殿に向かった。沿道は中国大使館が集めた群集で埋められ、チベットについての抗議者などは当局によって遠ざけられた。習近平は議会で演説する栄誉をあたえられ、首相の別荘、チェッカーズに招待された。

 習近平は政治的異議申し立てをここ数十年で最も厳しく取り締まっているのに、共同声明には人権について一言もない。その代わりに英中関係の「黄金の時代」、「21世紀のための世界的な包括的戦略パートナーシップ」が宣言されている。

 キャメロン政権の外交政策については疑念を持つ理由がある。5年半の任期中、軍事費の大幅削減とグローバルな関与からの撤退があった。米国に最も近い戦略的同盟国であった国が、「イスラム国」との戦い、シリア内戦、ロシアのウクライナ侵攻などで後部座席に座っている。

 キャメロンは英国を中国の最上の西側のパートナーにし、貿易・投資での優遇を得ようとしている。最初の成果が英原子力発電所への中国企業による90億ドル投資の発表である。キャメロンとオズボーンは、ロンドンを中国の金融取引の舞台にし、英国の会社が中国市場にもっと食い込むことを希望している。

 中国の投資を呼び込むこと、習近平政権と生産的な関係を追求することは、どの国もやっているが、キャメロンの無原則な熱意は心配である。米国が中国の隣国威嚇、南シナ海の領有主張、香港の自治や民主主義破壊に抵抗する時に、英国は一緒にやるのかについての疑問が出てくる。英高官によれば、キャメロンは香港問題を取り上げた。しかし習近平訪問は民主的価値の「黄金時代」の到来を示唆していない。キャメロンにとっては、黄金で十分であるように見える、と指摘しています。

出典:‘In visit with Chinese President Xi Jinping, David Cameron sells out’(Washington Post, October 23, 2015)
https://www.washingtonpost.com/opinions/in-visit-with-chinese-president-xi-jinping-david-cameron-sells-out/2015/10/23/85debeb2-79a1-11e5-b9c1-f03c48c96ac2_story.html

 この社説に対する駐米英大使ウエストマコットの反論は、次の通りです。

 すなわち、この社説は現実を反映していない。英国はNATOの国防費2%増、開発援助の国連目標を満たしている唯一の国である。次の10年、軍事力に2300億ドル投資する。「イスラム国」との戦いでは、米国とともに主導している。ペシュメルガへの武器などの供与は「後部座席」に座っての指導とは言えない。シリア難民には米に次ぐ17億ドルの支援をした。アサド退陣を要求した。ウクライナではロシアの侵攻に反対、制裁を実施した。イラン核問題でも意味ある役割を果たした。

 G7で最も成長している経済として、投資や貿易を奨励しているのは認める。貿易と人権等の難しい話は相互に排他的であるわけではない。キャメロン首相が先週言ったように「常に合意しないかもしれないが、問題を討議することはできる」。温暖化その他の問題についての英中間対話は、我々が建設的に協働しうることを意味する。

 「無原則な熱意」?国際舞台からの退場?私にはそうは見えない、と言っています。

出典:Peter Westmacott,‘Britain is hardly engaging in ‘back seat’ leadership’ (Washington Post, October 28, 2015)
https://www.washingtonpost.com/opinions/britain-is-hardly-engaging-in-back-seat-leadership/2015/10/28/d5dd76d2-7ce0-11e5-bfb6-65300a5ff562_story.html

*   *   *

 最近の英国の外交には、ワシントン・ポスト紙が指摘するような、国際的な問題への関与縮小、経済的利益重視の中国すり寄りが見られることは歴然としています。

 第一の国際問題への関与縮小については、例えば、ウクライナの非核化と見返りにブダペスト合意でウクライナの領土の一体性の保証をしたのは米ロとともに英国であり、英国は、そういう経緯からもっと多くのことをすべき立場にあるにもかかわらず、メルケル、オランドに対ロ交渉を丸投げしています。

 第二に、中国への経済的利益確保だけを念頭においたすり寄りはもっと目立っています。アジアインフラ投資銀行(AIIB)にG7の国として米国の反対を振り切り、率先して加盟の意図を表明、西側諸国の加盟の雪崩を作りました。中国の問題は、アジアにおいては経済の問題であるよりも安全保障の問題であり、中国が既存の国際秩序を守るか否かの問題です。英国は、かつてはグローバルに物事を考える国でしたが、今はそうではなくなったと言えます。ウエストマコット大使は、貿易、投資の促進と人権等の民主主義の原則の話は相互排他的ではなく両方ともなしうると言いますが、中国はキャメロンがダライラマに会ったことに反発して、中英経済関係にも悪影響を与えた国です。英側が一方的に「相互排他的ではなく、両方なしうる」と言っても、中国がそれに応じない場合どうするのでしょうか。もっと諸側面をバランスよく考慮すべきように思われます。

 米英の特殊な関係は、キャメロン政権のもと、揺らいできているように見えます。米中関係が安全保障問題で対決の要素が多くなる中、英国が経済的利益のために安全保障、人権は後回しにして、中国にすり寄る姿勢(たとえば香港での行政の長の民主的選挙を求めたデモへの英の静かな態度)が続くかぎり、その揺らぎはますます強くなっていくでしょう。

 ただ、ワシントン・ポストのような英国批判は、グローバル・パワーとしての英国についての期待の大きさがあるがゆえに、期待と現実のギャップゆえに、出てきているとも思われます。現実には、英国はすでにグローバルな大国には程遠いものになっており、我々の方がその新しい現実に適応すべきなのかもしれません。

  
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