海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年1月2日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「クリントン候補の異文化連合軍」です。異文化連合軍は、主として女性、ヒスパニック系(中南米系)、アフリカ系、若者及び同性愛者から構成されており、これらの有権者の支持獲得がクリントン陣営にとって欠かせません。

 現在クリントン候補は、オバマ大統領を2回勝利に導いた異文化連合軍のモデルを使用しています。しかし、同候補の異文化連合軍は、オバマ大統領のそれと比較すると脆弱で、多くの課題を抱えています。そこで本稿では、同候補の異文化連合軍の諸問題を指摘したうえで、連合軍を維持できるか否かについて考察してみます。

クリントン候補の教訓

 08年民主党候補者指名争いでバラク・オバマ上院議員(当時)に大接戦の末敗れたクリントン候補は、その教訓を生かしています。

第3回民主党テレビ討論会終了後、ディベート・ウォッチに参加した支持者に感謝の意を述べるビル・クリントン元大統領とヒラリー・クリントン候補。同候補は夫のクリントン元大統領を「秘密兵器」として紹介した(筆者撮影@ニューハンプシャー州マンチェスター「ミリーズ・タバーン」)

 まず、クリントン陣営の全スタッフに対して、意見の衝突が生じた際のルールとなる行動規範を作成したことです。その背景には、指名争いの最中に選対本部長と戦略担当が衝突し、選対が空中分解してしまったことがあります。結局、08年の選挙ではクリントン陣営は、チーム内の意見の対立に対処できなかったのです。

 中西部アイオワ州デモイン西部地区にあるクリントン選対には、行動規範が掲げてあります。その1つに、「多様な意見に対して寛容であること。反対意見が出たとき、個人攻撃だと思わないこと。いったん、意思決定がなされたら、協力して目的を達成すること」があります。選対で働く全スタッフは、この行動規範に基づいた発言や態度が求められています。

 次に、地上戦、特に戸別訪問に重点を置いていることです。クリントン陣営は、オバマ陣営に地上戦で敗れました。15年夏に筆者がクリントン陣営に入ると、オバマ陣営の戸別訪問の手法を改善するためにある実験を行っていました。それが、タブレットを用いた戸別訪問です。従来型の戸別訪問では、ボランティアの草の根運動員は有権者名簿、スクリプト(台本)及び訪問地区の地図をクリップボードに挟んで調査を行います。有権者名簿には標的となっている有権者の名前、年齢、住所及び質問項目と回答欄があります。一方、スクリプトには、「クリントン候補を支持しているか」「他の候補を支持しているのか」「どのような争点に関心があるのか」などの質問が含まれているのです。

クリントンストリート 15年12月、戸別訪問の最中にクリントンストリートを見つけ指差す筆者(@ニューハンプシャー州コンコード)

 オバマ陣営では、ボランティアの草の根運動員は戸別訪問が終わると、選対に調査結果を持ち帰り、データ入力の担当者にそれを渡していました。その後、データを受け取った担当者がデータを打ち込んだのです。ところが、アイオワ州のクリントン陣営では、運動員にタブレットを持たせ、戸別訪問先で即座に調査結果を入力させることによって、データ収集の効率化を図ろうとしているのです。タブレット型の戸別訪問では、データ入力担当者が必要ありません。しかも、有給のスタッフがボランティアの運動員のために有権者名簿と地図を印刷する手間も省けるというメリットも存在します。

 アイオワ州デモインで、筆者はタブレットを使用した戸別訪問の実験に2回参加しました。1回目は、真夏の日差しの強い中での戸別訪問でした。太陽の光のためにタブレットの画面を見るのが難しく、木陰に入って有権者の名前と住所を確認しながら調査を実施しました。2回目は、一転して大雨の中での戸別訪問になりました。画面についた雨粒のために、スワイプ(スライド)が思うようにできなくて悪戦苦闘しました。それに加えて、「党員集会に出向かない」という項目をスワイプして発見するのが困難でした。

 クリントン陣営の有給のスタッフが、タブレット型の戸別訪問についてフィードバックを求めてきたので、上の点について説明をすると、彼はメモを取りながら傾聴していました。筆者のフィードバックがどの程度、同陣営の意思決定に影響を与えたのかは分かりませんが、現在アイオワ州デモインのクリントン選対では、タブレット型と従来型の双方の戸別訪問を取り入れています。

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