WEDGE REPORT

2016年1月1日

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土方細秩子 (ひじかた・さちこ)

ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

 ワシントン州シアトル市が「最低時給15ドル」を議会で決議し、全米に衝撃を与えたのは2014年のこと。その後カリフォルニア州サンフランシスコ市も同様の決定を下し、15年にはニューヨーク、ロサンゼルスもこれに習った。

 時給15ドルは今すぐ実施されるものではない。ロサンゼルス市の例を挙げると、まず16年1月から現在9ドルの最低時給が10ドルに値上げされ、2020年に15ドルと段階的に上がる。零細企業に対しては一定期間の猶予も設けられる。他の都市もほぼ同様で、最低時給の引き上げは5年後を目処にしているところが多い。

 日本でも学生による「最低時給1500円に」というデモが話題になったが、おそらくは米国での15ドル運動に呼応していると思われる。この動き、16年はますます加速しそうだ。

時給15ドルは最低限の生活を送るのに
必要な金額なのか

 16年に最低時給15ドルの賛否を諮る自治体は、5州9都市に上ると予測されている。個々の企業でも独自の最低時給引き上げの動きがあり、15年にはフェイスブック、グーグル、UC(カリフォルニア大学)などが時給引き上げを発表した。マクドナルドも時給を12ドルに引き上げる方針だが、フランチャイズは含まず自社の社員のみ、という発表で批判を浴びている。

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 この動き、ファストフード従業員による1日ストなど、労働者側から提議されたもので、民間非営利団体であるNELP(National Employment Law Project)によって後押しされてきた。「我々にも最低限の生活を送る権利がある」とする労働者側の圧力に、自治体が譲歩した形だ。

 では、時給15ドルは最低限の生活を送るのに必要な金額なのか。ちなみに連邦政府の定める最低時給は7ドル25セント、と半額だ。現在も少数の自治体はこの最低時給を実施している。

 正直なところ、時給15ドルが生活するのに必要最低限か、というのは「住む場所による」としか答えられない。米国には最低限の生活を不自由なく送るのに必要な給与として「リビング・ウェージ」という定義がある。ロサンゼルス郡を例にとると、4人家族のリビング・ウェージは時給26.65ドル(年間2080時間労働計算)。いわゆる貧困とみなされるのは時給11ドルだが、これは15年時点の最低時給9ドルを上回る。つまり現在の最低時給ではフルで働いても一家4人を養うことはできない。

 ただし、4人家族でも両親が共働きの場合のリビング・ウェージは16.02ドル、貧困となる時給は5ドル。子供のあるなし、子供の年齢などの条件にもよるが、住宅価格が全米平均に比べて高く、車が必須の都市ゆえにリビング・ウェージは高くなる。サンフランシスコ、ニューヨークとなるとさらにこの数字は高くなり、サンフランシスコの4人家族では30.31ドルだ。

 つまり現時点では「都市部に生活し、扶養家族のいる労働者は時給が15ドルに引き上げられても貧困すれすれのレベルから抜け出せない」ということになる。

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