台湾新政権誕生で中国が強化する“工作活動”


前田宏子 (まえだ・ひろこ)  PHP総研 国際戦略研究センター主任研究員

1996年大阪大学法学部卒業。99年京都大学大学院法学研究科で修士号取得。同年PHP研究所入社。03年~04年中国清華大学留学。04年~05年中国当代中国研究所訪問研究員。13年台湾中山大学客員教授。

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台湾総統選・立法院選は、予想されていた通り、民進党の歴史的勝利に終わった。総統府も立法院(議会)も民進党が支配することになるのは、台湾歴史上、初めてである。

民進党への政権交代が決定し、支持者を前に笑顔を向ける蔡英文氏(Getty Images)

民進党政権誕生で両岸関係安定は保てるのか

 独立色の強い民進党政権が誕生し、中台関係はどう変化するか。まず、新総統に選出された蔡英文は、前回の総裁選に立候補したときと違い、大陸政策について慎重な姿勢を貫いている。「92年合意」(中国が中台関係の基本とする原則。「一つの中国」という原則があることは認めるが、その内容は中国側と台湾側で異なる、というのが国民党の解釈)についてどのような立場を取るのかと問い詰められても、明言を避け、また、陳水扁時代にアメリカからトラブル・メーカーと見なされた失敗を繰り返さないと発言していた。

 台湾では「台湾人意識」が定着し、大陸との統一などまっぴらごめんだと思う人が大多数を占めるようになっている。最近の中国国内における統制強化や人権抑圧、香港に対する政治介入などが、台湾の人々のそのような思いを強化したのは言うまでもない。だからといって、台湾の人々は中台関係の緊張や経済関係悪化を望んでいるわけではなく、蔡英文もそのことを理解しているため、台湾側から挑発的な行動を取る(独立色を強く出す)ことはないだろう。

 両岸関係の悪化があるとすれば、中国が強い反応を示す場合である。中国国内の強硬派が、台湾に対する圧力を強めるよう主張し、軍事的圧力を増す可能性がないとは言えないが、その可能性はそれほど大きくない。もちろん、台湾対岸のミサイルや戦闘機配備が増強されるなどの動きはあるだろうが、危機的状況を引き起こす動きは起こさないのでないか。

 なぜなら、習近平政権にとって、現在のところ、台湾政策は(台湾が「独立」を志向する強い政策を取らない限り)優先度の高い問題ではない。何よりも先行き不安が広がっている国内経済の安定が最優先であり、安全保障上は南シナ海や朝鮮半島のほうがまず取り組まなければならない問題となっている。台湾にあからさまな軍事的脅威を突きつけるより、新たな中台間の経済協力協定を締結しないなど、経済的な圧力をかけつつ、次の選挙に向け、台湾国内の利益団体や民衆に働きかける工作に力を入れる可能性の方が大きい。

 実際、中国は選挙期間中、過去行ったような台湾への露骨な軍事的行動は起こしておらず、選挙後も、中国政府や公的メディアは、台湾選挙について抑制的なコメントを出している。蔡英文政権が誕生する5月まで、新政権の政策を見極めつつ、対台湾戦略の見直しを行うはずだ。馬英九政権のときのような良好な中台関係は失われるだろうが、民進党政権が誕生したからといって、すぐに両岸関係が不安定になるということはなく、しばらく安定は保たれると予想される。

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前田宏子(まえだ・ひろこ)

PHP総研 国際戦略研究センター主任研究員

1996年大阪大学法学部卒業。99年京都大学大学院法学研究科で修士号取得。同年PHP研究所入社。03年~04年中国清華大学留学。04年~05年中国当代中国研究所訪問研究員。13年台湾中山大学客員教授。

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