民意と向き合うために中国が進める
SFばりの超監視社会

2016年の中国の展望


西本紫乃 (にしもと・しの)  北海道大学公共政策大学院専任講師

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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株式市場の混乱と中国政府の動揺

 2016年の幕開け早々、上海株式市場の株価乱高下を受けて世界中が中国にふりまわされた。中国がくしゃみをしたら、世界各国に風邪が蔓延する、まさにそんな様相だ。

 中国の経済動向は、過剰な設備投資とその背後にある不良債権のリスクや、ハイリスク金融商品の乱発と、その管理を難しくしている入り組んだ金融機関の構造が抱える信用リスクなどが指摘されており、2016年はそうした危うさを中国政府がきちんとコントロールできるのかという点がポイントだ。

 しかし、株価の急激な変動を防ぐために設けられたサーキット・ブレーカー制度も導入開始後わずか4日で停止することになるなど、年初から当局は市場に振り回されているようだ。日本や他の国以上に「お金の問題」は中国では個々人にとって重要な問題で、それだけに株価下落や景気低迷の見通しなどは庶民に与える心理的ダメージも大きい。中国では、市井の庶民に至るまで株式や様々な金融商品に投資しているので、株価の下落は国民の政府に対する不満にも直結する。そうした中国的事情とそれが政権を揺るがしかねない事態に発展するリスクを中国政府もよくわかっているからこそ、場当たり的な対処になってしまうのだろう。

 株式市場の混乱が象徴するように、2016年は中国政府にとって民意をどう扱うかがより一層重要な課題になってくることは間違いない。習近平政権はこれまで3年のあいだ国民のマインドをいかに共産党の政治にひきつけるかということに腐心し、中国政府に批判的な世論が広がりはしないかということに警戒を払ってきた。例えば「30年前の状況に後退した」といわれるほど言論統制を強化する一方で、積極的に立ち回る外交で「責任ある大国」イメージを強く打ち出すなど、統制と主張の両面から世論の誘導に務めている。

中国政府の民意に対する攻めの姿勢

 習近平政権は政権発足当初から、反腐敗運動に力を入れることで悪事を正し、腐敗公務員を一掃する強いリーダーのイメージを強く打ち出してきた。

 反腐敗運動については党内の政治闘争的な色彩も指摘されているが、これまで党幹部たちの近親者への便宜供与、公金横領や賄賂の横行といった腐敗を苦々しい思いで見ていた庶民にとって、公正で強いリーダーとしての習近平のプラスのイメージが浸透しており、中国国内では我々が思う以上に国民の支持を得ており、毛沢東のように習近平を神格化するような雰囲気も生じてきている。 

 北京の街中でも習近平の姿を描いた絵皿をちらほら見かけるようになった。これは胡錦濤の時代にはなかったものだ。習近平をかつての毛沢東と同じような扱い方をする世間の風潮に、時代錯誤と薄気味悪さを禁じ得ないが、国家主席就任から3年、習近平は中国の庶民にとって超越的な権力を持つリーダーとして映っているということなのだろう。

 ただし、国民の支持を得た反腐敗もそろそろ手詰まりだ。2013年からおよそ2年間にわたり中国の政治の世界で吹き荒れた反腐敗運動の嵐によって数知れぬ幹部たちが失脚し、自殺にまで追い詰められた者も少なくない。2014年7月に周永康を規律違反で立件したことで最大のピークを迎えたが、2015年は中央や地方の行政の幹部だけでなく、国有企業に範囲を広げて各所で摘発が展開された。

 党のクリーンさを保つために党員を啓発し、罰則を明確化して自己規制を促す狙いで、2016年1月1日付で新たに改定された「中国共産党清廉自律基準」、「中国共産党規律処分条例」も施行された。制度的には反腐敗はそろそろやり尽くした感があり、国民向けにも既に新鮮味が無くなっていて、むしろ公務員の不作為の蔓延、各種プロジェクトの停滞、人材の枯渇といったマイナス面が見え始めるようになっている。

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著者

西本紫乃(にしもと・しの)

北海道大学公共政策大学院専任講師

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

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