チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年1月7日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’sを経て、13年1月より現職。

 2016年は物騒なニュースとともに明けた。1月3日、「サウジアラビアのジュベイル外相が、イランとの外交関係を断絶すると表明した」と、サウジ国営通信が伝えたのだ。日本にも衝撃が走ったのは、サウジとイランの国交断絶が、第5次中東戦争の危険さえ孕んでいるからだ。

 イスラム教スンニ派が国民の85%を占めるサウジアラビアとイスラム教シーア派が91%を占めるイスラム大国イランの間の対話のチャンネルが切れたということは、スンニ派とシーア派の間の問題解決の手段は戦争しか残されていないという意味でもある。

 サウジアラビアに続いて、サウジアラビアと同じスンニ派の王族が支配しているバーレーンと、スンニ派が国民の多数派を占めるスーダンも、イランとの外交関係を断絶すると発表した。まさに、中東で、スンニ派とシーア派の断裂が起こっているのだ。

サウジの影響力低下は織り込み済みの米国

海軍を増強してきた中国だが……(Getty Images)

 中東の断裂は、米国や欧州各国が心配する事態であるが、サウジアラビアに対する米国のグリップが効かなくなっていることを示すものでもある。欧米及びロシアは、核兵器開発に関してイランと合意に至っているが、米国のイランに対する融和的姿勢はサウジアラビアにとって許容できないものだ。イランの核問題を解決に向かわせる代わりに、米国はサウジアラビアに対する影響力を失ったのだと言える。

 サウジアラビアに対する影響力の低下は、米国にとっては織り込み済みだという分析もある。米国は、イランの核兵器開発の中止を優先させたのだ。一方で、米国のメディアは、オバマ政権は、同盟国であるサウジアラビアとの関係を再構築しなければならないという圧力に晒されていると報じている。

 米ロ両国は、サウジアラビア及びイラン双方に自制を求めている。すでに、ケリー米国務長官が事態の緊張緩和に向けて動いている。ロシアも、「イランとサウジアラビア間の関係改善のため仲裁する用意がある」としている。米ロともに、中東での大規模な衝突を避ける努力を見せるのは、中東で、スンニ派とシーア派が衝突すれば、米ロも巻き込まれる可能性があるからだ。

 中東で大きな影響力を持つ、サウジアラビアとイランの対立は、中東を二分した軍事衝突に発展しかねない。現に、バーレーンもスーダンもサウジアラビアに追随している。シーア派の盟主の地位を回復したいイランは、イラク及びシリアとの連携を深め、いわゆる「シーア派ベルト」を構築しようとするだろう。米国は、同盟国たるサウジアラビアが戦闘状態になれば、無視することはできない。シリアを支援し、イランとも良好な関係を持つロシアも、黙っていられなくなる。

中国は中東情勢をどう見ているのか?

 米ロが、軍事衝突を避けるようにサウジアラビア及びイラン双方に自制を求めているのに対して、中東や地中海沿岸国に影響力を強めつつある中国は、情勢をどのように見ているのだろうか。米国や国際社会の関心が中東に向かえば、南シナ海における中国の自由度が高まると考えられることから、現在の状況を歓迎しているのか。いや、問題はそのように単純なものではない。

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