知的財産権の活用に力を入れている会社が多い。しかし、どの特許を使って収益があがり、それは誰が創出したのかを分かっている経営トップはどれだけいるだろうか。まして、知財の責任者は良く分かっていても、人事がそれを理解して人材活用につなげているケースはあまり聞いたことがない。米国の有力ベンチャーには、特許を調査した上で人材にアプローチをかけている企業もあるという。
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こうした視点を持つようになったきっかけは、当時のソニー・出井伸之CEOから「会社の重要特許を誰が出しているか知っているか」と示唆を受けたからだ。すぐに特許とその出願者をリスト化したところ、それまで社内で全く知られていなかった人物の名前があがった。直接本人に会ってみて驚いた。Aさんは技術を持っているにもかかわらず、当時係長クラスでほとんど部下も持たず、10年間ほど事業部内で“座敷牢”にいた。
社内で脚光を浴びる場所に引き上げると妬みや嫉みで潰されてしまう。そこで研究とは無関係のマーケティングの部署に囲いこみ、研究開発に必要なメンバーを周辺に配置。本人がそれまでやっていたことを実現しやすい体制を作った。結果、彼は大いに会社に貢献し、後に短期間で役員にまで上り詰めた。
このケースは1つの事例であるが、私自身、本当に人材を見極め、正しく活用をしているだろうかと、真剣に考えるきっかけとなった。人材の棚卸しを正
しく行い、ヒトと接する活動をこまめに行えていたのであれば、彼に陰鬱とした10年を過ごさせるようなことは無かったのではないか。組織が縦割りであ
ることに阻まれ、全社的な視点で見られていなかったのではないかと猛烈に反省した。