米シンクタンクCSISの客員フェローで、モスクワの工業化後研究センターの所長を務めるイノゼムツェフが、1月17日付のワシントン・ポスト紙に、「プーチンの自壊する経済」と題する論説を寄せ、ロシア経済の状況を解説しています。イノゼムツェフの論旨は、次の通りです。
2017年に成長が戻らなければ……
ルーブルが25%下落した「ブラック火曜日」から1年少し経ったが、ロシア経済はまだ不確かである。GDPは3.9%減少し、インフレは13%以下であった。今年は成長するとの予測も、非現実的に見える。
国際金融機関とロシアの経済省はともに2016年経済成長はないとしている。IMFと世銀は0.6%の縮小、ロシア当局は0.8%の縮小を予想している。しかし2017年、成長は戻ると言うのが今のコンセンサスである。それなら、今の状況は、石油価格下落と制裁による通常の経済の下押しと言える。
しかし、もし成長が戻らないとすると、どうなるか。
ロシア経済は、2009年よりずっと悪い。可処分所得は減り、ドルベースの名目賃金は2005年より低い。小売りは2009年から半分になった。連邦予算収入は2006年と同じレベルである。モスクワの平均的アパートの価格は、2014年よりルーブルで16%下落し、ドル換算では半分になった。モスクワとサンクトペテルブルクの事務所家賃は2002年レベルに押し戻されている。ロシア経済は、石油収入の減少や官僚的圧力で苦しんでいる。
2000年からのロシア経済を評価すると、二つの時期がある。
2000~2007年の間は、7%経済成長し、株は上昇、平均所得は3倍になった。2008年~2015年は停滞であった。成長はほぼゼロ、資本逃避が加速し、ビジネス環境は悪化し、増税もなされた。 プーチンがグルジア、ウクライナ、シリアで軍事作戦をし、軍事支出は倍増した。彼の関心は経済から地政学になった。
この時期は、二つの危機と一つの回復と言われる。しかし、成長のない長い期間というのがより適切である。メドヴェージェフ首相が言うように、ロシアは最初の危機を脱する前に次の危機に入った。ロシア経済はますます不自由になる政治に完全に従属させられており、たとえ、制裁解除や石油価格の正常化があっても、回復の希望はほぼない。
1988年にも2008年にも外国企業はその投資を放棄しなかった。しかしEUに対する「逆制裁」、トルコとの緊張、ロシア法により国際条約が凌駕されるとの宣言で、ロシア政府は、外国からの投資にブレーキをかけている。昨年、オペル、アドビシステムズ、ストックマンを含む20以上の西側企業がロシアから撤退し、外国人所有の約30の生産施設が閉鎖された。ロシアからの移民は2008~2010年の年平均3万5千人から、2015年には約40万人以上の予測になっている。この傾向が変化する兆候はない。