辺境を駆けめぐり、
生命起源の謎を追う研究者

生物学者・長沼毅(後篇)


高井ジロル (たかい・じろる)  編集ライター

1967年生まれ。北海道大学文学部卒業後、情報誌編集部を経て 、97年からフリー編集ライターに。著書は『Globes 地球儀の世界』(ダイヤモンド社)、『魂を熱くさせる宇宙飛行士100の言葉』(彩図社)など多数。

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

“学問玄人”である研究者の方々に話を伺い、学問の醍醐味、楽しさを伝える連載企画。ユニークな研究者、長い時間をかけて壮大な問題に取り組まれている研究者、学界の“星”のような研究者など、さまざまな研究者に、その研究内容や研究の道に入ったきっかけなどを伺います。ビジネス情報誌「月刊 WEDGE」との連動企画。

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長沼毅は、深海、火山、砂漠、南極など、地球上の辺境に生きる微生物を調べることで、
生命はどこからきたのか、という大きな謎に挑み続ける研究者である。
研究への尽きぬ興味は、どこから生まれどこへゆくのだろうか。(前篇はこちら

●先生はこれまでにいろいろな辺境を旅して、そこにいる微生物などの生命を研究されてきたわけですよね。

サハラ砂漠(チュニジア・ザフラン)でらくだに跨り、調査に向かう長沼氏。

——うん。潜水調査船に乗り込んで深海に行ったのがそもそもの発端で。高い水圧と高温に包まれた深海火山では、光合成に頼らず化学合成で生きるチューブワーム(ハオリムシ)と出会い、酸素が欠乏した地底では、地球の奥深くにもたくさんの微生物が存在することを知った。地球で最も寒くて乾燥している南極では、猛烈な塩辛さの中でも生きられる微生物ハロモナスを見つけた。北極や、砂漠や、高山や、鍾乳洞にも行った。

 そうした辺境の生命を調べることで、地球生命の多様性と可能性、そしてその起源を探るための材料を得てきたわけ。生命の起源が誕生した頃の環境は、現代でいえばこうした辺境生物圏にこそ近かったと考えられるからね。

●幼稚園の砂場で直感した「自分はどこから来て、どこへ行くのか」という問題意識のうち、「どこから」の問いに答えようとする研究ですよね。では、「どこへ」の問いに答えるものは何だったんでしょうか。

——それは、一言でいえば、鉄についての研究ということになるかな。

●むむむ。鉄、ですか。アイアンですか。少々唐突な気がいたします。

——広島大学の上真一先生について海洋プランクトンの生態を調べたときに、生命には鉄が重要だということを知ったのがきっかけだった。鉄分が不足すると、人間は貧血になるけど、植物プランクトンは成長しなくなるんだよ。鉄が不足した海域に鉄を散布する実験を行なうと、植物プランクトンは見事に増える。当然、鉄には何かある、と思うでしょ。

『森は海の恋人』(畠山重篤)

 潜水調査船「しんかい6500」で潜ったときに畠山重篤さんの『森は海の恋人』(文春文庫)という本と出会ったことも大きかったかもしれない。森を再生すれば海も豊かになるはずだ、という畠山さんの直感は、科学的には鉄と腐葉土の組み合わせで説明できるんだ。

 それから、もっと言えば、この宇宙が充分歳をとったら、宇宙は全部鉄になってしまうんだよ。どれだけいけば充分なのかはわからないけれども、とにかくずっと歳をとったら、宇宙のすべての物質は鉄になってしまう。

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著者

高井ジロル(たかい・じろる)

編集ライター

1967年生まれ。北海道大学文学部卒業後、情報誌編集部を経て 、97年からフリー編集ライターに。著書は『Globes 地球儀の世界』(ダイヤモンド社)、『魂を熱くさせる宇宙飛行士100の言葉』(彩図社)など多数。

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