韓国の「読み方」

2016年3月24日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11〜15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社、共著)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。毎日新聞サイト内に主な記事などを集めた個人ページ「アンニョン!@ソウル」がある。近著に『韓国「反日」の真相』(15年、文藝春秋)。

 国連の女性差別撤廃委員会が3月7日、慰安婦問題に関する昨年末の日韓合意について「被害者中心のアプローチを完全には取っていない」と批判的に評価した「最終見解(concluding observations)」を公表した。合意を全否定するものではないが、履行に当たっては元慰安婦の意向を十分に配慮すべきだなどと注文を付けた。見解はさらに、元慰安婦を再び傷つけるような発言を慎むよう日本の指導者や当局者に求めた。

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 国連に限らず人権機関というのは、普通は弱者寄りの立場を取るものだ。日韓合意はもう少し評価してもいいのではないかと思うものの、驚くほどの内容とはいえなかった。

 ところが、翌朝の産経新聞と朝日新聞には驚かされた。

驚きの「大ニュース」扱い

 産経新聞(東京本社最終版)は1面トップで「国連差別撤廃委 慰安婦『強制性』言及せず」(見出しは違うが「Webサイト」でも読める)と報じた。安全保障理事会の北朝鮮制裁決議採択に匹敵するような大きさだ。決議に従うことを加盟国に義務付けられる「法的拘束力」を持つ安保理決議と、単なる「勧告」にすぎない女性差別撤廃委員会の最終見解の重みは天と地ほど違う。だから、まずは記事の大きさに驚いた。

 産経の記事は、最終見解への批判というより、「慰安婦募集の強制性」への言及がなかったことや、「性奴隷」という言葉が使われなかったことに力点が置かれていた。日本政府が審査で反論したことが功を奏したという伝え方だ。

 しかし、女性差別撤廃委員会は過去の対日審査での最終見解で「慰安婦募集の強制性」を問題にしたことはないし、「性奴隷」という言葉を使ったこともない。国別審査は数年ごとに行われるのだが、「2009年の前回審査」も、その前の「2003年審査」も、さらにその前の「1994年審査」でも、そんな言葉は出てこないのである。

 もっとも産経は、1面に掲載した「解説記事」で、「強制性」については「今回の最終見解では(中略)強制性への言及があるのではないかとみられていた」と書いている。だから読む人が読めば、今まで言及されていなかったことが分かる。

 ただ産経の記事によると、強制性への言及が行われるかもしれないという観測の出発点は、日本の民間人が委員会の準備会合で「強制連行はなかった」などと説明したこと。慰安婦を支援する団体が「強制連行だった」という日本非難を展開したからという筋立てではないそうだ。

 そうなってくると、「強制性への言及がなかった」ことを産経の記事が肯定的にとらえているように読めるのは不思議な感じがするのだった。産経は「今回の最終見解からは、慰安婦問題の強制性をめぐる議論は国際社会では問題ではなくなりつつあるという『兆し』も見えた」とも書いている。「強制性」を巡る論戦をしたいのか、したくないのか、よく分からなくなってきた。

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