■今回の一冊■
TOO BIG TO FAIL 筆者Andrew Ross Sorkin, 出版Viking, $32.95
ニューヨーク・タイムズ紙の金融担当の記者が、2008年の金融危機について、ウォール街の大物とアメリカ金融当局者たちの人間ドラマを中心にまとめた。同年3月のベアー・スターンズの実質破たんから、同年10月の大手銀行への公的資金注入までの期間を対象に、金融システムの崩壊を防ぐために関係者が奔走する様子を、ほぼ時系列に追っていく。難しい金融危機の本質に迫るというよりは、慌てふためくウォール街の大物たちの人間模様を、豊富なエピソードを交えながら描き、興味のつきない読み物としてまとめた。
リーマン・ブラザーズなどの特定の会社の破たん劇にテーマを絞っているわけではないので登場人物も多彩だ。日本人にとっては三菱UFJフィナンシャル・グループによるモルガン・スタンレーへの90億ドルの出資を巡る舞台裏がもっとも楽しく読める。
仰々しい三菱UFJをリゾート姿で迎えるモルガン
すでに日本でも一部報じられてきたように、とにかく出資を急いで欲しいというモルガン側の要望により、三菱UFJは90億ドルもの多額の出資を1通の小切手で実施するという異例の措置をとった。増資を実施した08年10月13日はアメリカの祝日で銀行が閉店しており、通常の送金手続きがとれなかったからだ。本書によると、このとき、モルガン・スタンレーのロバート・キンドラー副会長が、ニューヨークの法律事務所のオフィスで、三菱UFJ側から小切手を受け取ったのだが、そこでは滑稽な光景がみられた。
出資の土壇場での条件変更などに対応するため、急きょ旅先から戻って徹夜で対応にあたったキンドラー副会長はリゾート服にサンダルという格好で無精ひげをはやしたまま、13日午前7時半に法律事務所の会議室に座って、三菱UFJ側が来るのを待っていた。
Kindler was expecting a low-level employee from Mitsubishi to deliver the final payment when he learned from Wachtell’s receptionist that a contingent of senior Mitsubishi executives, dressed in impeccable dark suits, had just arrived in the building’s lobby and was on its way upstairs.
Kindler was embarrassed; he looked like a beach bum. He ran down the hall and quickly borrowed a suit jacket from a lawyer―but as he was buttoning the front he heard a loud tear. The seam on the back of the jacket had ripped in half. (p517-518)
「キンドラーは三菱UFJの下っ端の職員が小切手を持ってくると思っていた。ところが、法律事務所の受付から次のようにしらせてきた。三菱UFJの幹部たちの一団が、きちっとしたダークスーツに身を包み、ビルのロビーにちょうど到着し、いま上の階に向かっていると。キンドラーは困惑した。ビーチの遊び人のような格好をしていたからだ。廊下を走って弁護士の一人から急いでスーツのジャケットを借りた。しかし、前のボタンを閉めた時に服が裂ける大きな音がした。背中の縫い目が半分、裂けてしまったのだ」