野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2016年5月6日

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 フィリピンでは、現職のベニグノ・アキノ大統領の任期満了に伴う大統領選の投票が9日に行われる。激戦が続いており、目下のところ、アキノ大統領の後継指名を受けたマヌエル・ロハス前内務自治大臣、有名俳優のフェルナンド・ポー・ジュニアの娘であるグレース・ポー上院議員(47)、元マカティ市長のジェジョマル・ビナイ副大統領(73)、そして、南部・ミンダナオのダバオ市長のロドリゴ・ドゥテルテ氏(71)が競っている状況だが、ダークホースのドゥテルテ氏が頭一つリードし、ポー上院議員が追いかける展開になっている。今回の大統領選について、フィリピン政治に詳しい日下渉・名古屋大学大学院准教授に話を聞いた。

頭一つリードするロドリゴ・ドゥテルテ氏(Getty Images)

野嶋 今回の選挙のこれまでの展開をどう読み解きますでしょうか。

日下 今回の面白さは従来の階層による分析が効かないところです。フィリピンは一部のお金持ち、2〜3割の中間層、そして残りは貧困層だとされています。近年の選挙では、多数を占める貧困層向けに貧困の解決を訴えるポピュリズムが人気を集めてきました。エストラダ元大統領は、1998年大統領選で「貧者のための政治」を訴えて地滑り的勝利をしました。今回の候補者になっているポーの父親フェルナンド・ポー・ジュニアも2004年の大統領選で、「すべての食卓に三度のご飯を」と主張して、あともうちょっとで政権が取れるところまで行きました。10年大統領選挙でも、貧者に優しい政治を主張した二人の候補の得票数は、当選したアキノよりも多かったのです。

 今回の選挙の候補者のなかで、貧困問題を最も語っているのはビナイです。彼自身が貧しい生まれだとして、貧困層へのサービスを強調します。1986年の民主化以来、ビジネスの中心マカティ市の市政を牛耳り、豊富な税収をもとに教育と医療の無料化、高齢者福祉の充実などの実績を挙げました。大統領になって全国でも同じことを実施すると主張しています。月収3万ペソ以下の中低所得層への所得税をなくすとも言っています。

 ビナイの主張はポピュリズム的なものです。しかし、今回ビナイの支持はマニラ首都圏を越えて伸びていません。アキノ政権が政敵であるビナイの腐敗疑惑を執拗に追及したからだけではなく、「貧者を助ける」というアピールが貧困層から飽きられているからなのかも知れません。

野嶋 今回の選挙で格差問題、貧困問題はイシューではない、ということでしょうか。

日下 実際、フィリピンではまだまだ格差はすごいし、貧困への不満はあります。しかし、その不満を受け止めるものが、従来のポピュリズムではなくなっているのです。また、ポピュリストは既存の権力構造にいないから変革が可能だと期待されます。しかし、ビナイはずっと86年から政治の表舞台にいた人であって、フレッシュさがないのです。

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