2024年4月20日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2010年1月20日

 なぜか? 牛はとてもひどい汚染源だからだ。牛だけでなく、羊など餌をモグモグと繰り返し噛んで食べる、いわゆる反芻動物も同様だ。この動物たちのはき出す息や、胃腸にたまるガス、ゲップ、糞はメタンガスを出す。広く知られる測定結果によれば、こうしたメタンガスは、乗用車(あるいは人間)が排出する二酸化炭素に比べ、25倍も強い力を持つ温室効果ガスなのだ。世界の反芻動物たちは、人間の乗り物全体より50%も多い温室効果ガスを産み出しているのだ」

 そもそも、公共交通機関が発達しアメリカよりも格段にエネルギー効率の高い生活を送っている日本人が、アル・ゴア元アメリカ副大統領の環境問題映画「不都合な真実」に感化され一段と環境意識を高めたが、広い国土で乗用車や飛行機を乗り回すアメリカ人の多くは、地球温暖化は科学的な根拠が薄弱としてそもそも信じていない。

 ましてや、政府による個人生活への権力介入を嫌う保守層は、国が二酸化炭素の削減目標を掲げることに反発を強めているのが実情だ。「プリウスに乗っても意味がない」という本書のような主張に対し、アメリカ人の読者が喝采を送っている様子が目に浮かぶ。同様に、次の一節も痛快だろう。

 When Al Gore urges the citizenry to sacrifice their plastic shopping bags, their air-conditioning, their extraneous travel, the agnostics grumble that human activity accounts for just 2 percent of global carbon-dioxide emissions, with the remainder generated by natural processes like plant decay. (p170-171)

 「アル・ゴアが庶民に対し、買い物用ポリ袋を使うな、エアコンをつけるな、不要不急の旅行はするなと呼びかける一方で、懐疑的な人々は不平を言う。人間の活動が排出する二酸化炭素は世界のたった2%に過ぎず、残りは植物が朽ちるときなど自然の変化で生じているのに、と」

 もちろん、地球温暖化説に反論する類書は多いものの、本書は安いコストで地球の気温を下げる科学的な方法があることを紹介する。Intellectual Ventures(インテレクチュアルベンチャーズ)という投資ファンドが、地球の気温を手ごろなコストで下げる方法を研究しているという。この投資ファンドは、マイクロソフトの元最高技術責任者(CTO)と、同じく元最高ソフトウエア設計者の2人が2000年に共同で設立、企業や大学などが開発保有する特許技術に投資する。実は、日本にもすでに上陸しているファンドだ。

 米国のハイテク産業を代表するマイクロソフトで活躍した科学者たちが、手にした巨万の富をもとに投資ファンドを興し、地球温暖化の科学的な解決策を模索するという、まさにアメリカンドリームを体現する話は、アメリカ人ならずとも興味を覚える。

温暖化を解決する夢の技術!?

 フィリピンのピナツボ火山が1991年に噴火した後、地球の気温が低下したという科学データがあり、噴火が成層圏に二酸化硫黄を吹き上げることが、地球を冷却する効果を持つという。二酸化硫黄は成層圏では、水蒸気を吸収してエアスプレー状の雲を形成し、地表に届く太陽光の量を減らし気温を下げる。インテレクチュアルベンチャーズでは、軽量の細いホースをいくつもの気球で連結して成層圏に伸ばし、二酸化硫黄を散布する方法を研究中だ。北極圏向けにこのシステムを準備するのに2年で2000万ドルあれば十分で、その後の年間の運営コストも1000万ドルしかかからないという。

 炭素税などで企業に過大な負担をかけるよりも、よっぽど安上がりでしかも簡単で確実だ。成層圏までいかなくても、ファイバーグラス製の船を海で走らせ、海水のしぶきを人工的につくって洋上の雲を増やす方法なども研究している。試算では、大洋上の雲の反射率を10~12%上げるだけで、現状よりも温室効果ガスが2倍に増えても、地球の気温の上昇を防げるという。人工的な雲の威力について本書は次のようにも語る。


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