「大訪中団」と「天皇特例会見」を受けて胡指導部は、小沢の絶大な権力と影響力を見せ付けられたからだ。
筆者は『文藝春秋』2月号に「中国共産党『小沢抱き込み工作』」と題するリポートを寄稿したが、中国が小沢を見る上で興味深い視点を拙稿の中から紹介したい。
「中国政府関係者も、鳩山内閣を支配する小沢一郎について、最高実力者として時の総書記の上に立った『鄧小平』になぞらえる」。
「鳩山ではなく、やはり小沢だ」。指導部は、日中間で懸案が持ち上がった際、最高実力者・小沢を「窓口」にすれば、「政治主導」で解決を図れると見込み、対日工作を強めようとした。その矢先の「陸山会」をめぐる土地取引事件だった。
米長官に「危うい中国」説く
米軍普天間飛行場移設問題をめぐり日米同盟への亀裂が深刻化する最中の「小沢大訪中団」に対し、オバマ米政権からは、極端な対中接近に警戒論が噴出した。「小沢は一貫して民主党における対中交流の核心人物」と断言する社会科学院日本研究所の高洪研究員は、共産党機関紙・人民日報系の国際問題紙『環球時報』(09年12月11日付)に対してこう冷静に分析している。
「小沢は対中友好を主張しているが、同時に日本が『大国路線』を歩み、日本の利益を保護する戦略という点では非常に強硬的な政治家である。国家戦略上で『日本は中国とは切っても切り離せない』とはっきりと認識しているにすぎない」。
確かに小沢は、中国高官を前にした時の親中的発言と、それ以外の場で語る独自の「中国論」では大きく内容が違うことに注意を払う必要があろう。
例えば、民主党が政権を取る前の09年2月。小沢は同党代表として来日した中国の王家瑞共産党対外連絡部部長と会談した際、当然ながら「親中派」の顔を前面に出した。「中国もアメリカも、ともに大事な国であり、(日中間と日米間が同じ長さの)二等辺三角形であり、トライアングルであることはその通りだ。中国は隣の国だし、長い歴史もあり、文化的にも交流が深い。そういう意味でどっちが大切とか、そういうことではなく、中国に対する特別な親近感を持っているし、当然、両国のより良い関係を発展させたい」。
しかし実はこの1週間前、クリントン米国務長官が来日した際、打って変わって同長官に厳しい「中国論」を展開しているのだ。
「中国問題がより大きな問題だと思う。中国のこれからの状態を非常に心配している。鄧小平さんが文化大革命の失敗を償うために市場主義を取り入れたのは大きな成果だったが、それは両刃の剣で市場主義と共産主義は相容れない。必ずこの矛盾が表面化するだろう。従って日米にとって世界にとって最大の問題は『中国問題』だろう」。
この頃、講演会ではもっと過激な「中国論」を披露している。「中国はバブルが崩壊して共産党の腐敗は極度に進行している。軍部も非常に強くなっている。そういう中国で今、景気後退で大量の失業者が出ており、各地でものすごい暴動が起きていると聞いている。抑えているけど、共産党政権というのはその基盤が揺らいでいると思っている。中国は非常に危ういと思う」。