拠りどころを失った温暖化対策法案

IPCC崩壊 それでも25%を掲げ続けるのか


伊藤公紀(いとう・きみのり)
横浜国立大学大学院工学研究院教授。1950年福岡県生まれ。78年、東京大学大学院工学研究科工業化学専攻卒業。著書に『地球温暖化論のウソとワナ』(KKベストセラーズ)など。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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 地球温暖化対策基本法案が、大臣私案発表後1カ月もたたないうちに成案化され、国会に上程された。閣議決定がずれ込む中、土壇場で開かれた3月5日の中央環境審議会では、批判や懸念の声はスルーし、賛成派の意見にだけ言及する政府側の姿勢が目立った。達成不十分な項目の多いマニフェストのなかで、温暖化対策だけはなんとか満点で参議院選挙に臨みたいのだろう。
_鳩山由紀夫首相は、政権奪取直後の昨年9月、国連の演説でこう言った。「IPCCにおける議論をふまえ、(中略)温暖化を止めるために科学が要請する水準に基づくものとして、1990年比で言えば2020年までに25%削減を目指します」
_今からみれば、この演説どおりに事は進められた。パブリックコメントも審議会もはじめからガス抜きのつもりだったのか。党内からも「ごく少数で決められた」と批判の声があがるマニフェストの内容を金科玉条として、密室の「副大臣級会合」で拙速な決定を積み上げていくのが「民主」党では、あまりに皮肉だ。
_しかしこの間に、世界各国の温暖化対策推進の大きな拠りどころになっていたIPCCに「事件」が続発した。欧米では批判報道が相次ぎ、その信頼性はもはや地に落ちたといってよい。果たして本稿を「懐疑派論者のたわごと」と切り捨てられるか。国民には、鳩山政権の本質を見抜く眼力が求められている。(編集部)

 鳩山政権のCO2排出25%削減の根拠は何か。それは2007年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書が出した「20世紀後半の気温上昇や異常気象はCO2濃度増加による」という結論だろう。

 しかし、IPCC自体が崩壊の危機に瀕している。既にインドのように、IPCCからの撤退すら表明している国もある。権威ある科学誌ネーチャー10年2月11日号は、「IPCCを育てる?  改良する? 解体する?」という特集を組んだ。IPCCの現実を知らないでいては、日本人は世界の動きに取り残されるだろう。

情報ロンダリングが次々と発覚

 「ヒマラヤの氷河『25年後消失』は根拠なし? 英紙、国連報告に異論」と朝日新聞夕刊(10年1月19日)は報じた。しかし疑問符は不要だった。IPCC第4次報告書に記された「2035年にヒマラヤ氷河が消失し、下流では重大な水不足」は、まったく根拠がなかった。むしろ、政治的なでっち上げといってよい。

 今この事件はグレーシャーゲート(氷河=glacier)と呼ばれている。これは、昨年発覚したクライメートゲート(詳しくは後述。ニクソン米大統領のウォーターゲート事件にちなむ)に続く、一連のIPCCゲートの始まりの事件である。

 事件の下地には、インドの氷河学者V・K・ライナが行った綿密なヒマラヤ氷河の調査があった。サイエンス誌(09年11月13日号)によれば、ライナは自分の調査に照らしてIPCC報告書に疑問を感じ、「ヒマラヤ氷河が急激に衰退している証拠はないし、もし衰退していても水不足が起きることはない」という主張をインド環境森林省の報告書として発表した。

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