個人美術館ものがたり

2010年4月19日

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赤瀬川原平 (あかせがわ・げんぺい)

画家、作家

1937年、神奈川県生まれ。60年代にネオ・ダダイズムなど前衛芸術運動に参加。80年「尾辻克彦」名の『父が消えた』で芥川賞を受賞。『散歩の学校』『昭和の玉手箱』『千利休 無言の前衛』など著書多数。

東洋の古美術品それぞれの作品鑑賞に最適な調光を実現した
最新技術によるLED(発光ダイオード)とハロゲンの照明……。
東京・南青山に、古くて新しい美術館がリニューアルオープンしました。

 根津美術館が新しくなった。このところ長い間休館していたのだ。いったいどうしたんだろうと、痺れをきらしていた。行きやすい位置にあるからよけいにそう思う。

 この美術館はじつにいい位置にある。表参道という華やかな、そして風格のある欅の並木道は有名で、ある種、若者の晴れ舞台だ。参道は明治神宮へのもので、そこから伸びる長い通りが華やかさを過ぎて、静かになったところをもう少し行くと、そっと美術館がある。絶妙な位置だ。

 そっとあるという感じは、建物が高層ではないからだ。新創成った建物も和風の瓦屋根、それも相当面積の広い瓦屋根をのせた2階建で、しかもその先にある広い庭がそこからなだらかに下がっているので、よけい外からは目立たない感じになっている。目立たないというのは、いまでは最高の贅沢である。

 正門から入ると、細い竹の生垣と、切った竹材とで造る長いアプローチが伸びている。料理でいうと前菜みたいなものだ。それをたっぷり味わってから左に曲り、ガラスのドアを開けて館内に入る。

 館内は清潔な、それでいて少し気構えをした空気に満たされていた。来ている人がみんな上級のおしゃれをしている感じ。新幹線のグリーン車の空気を思い出した。どちらも年配者が多い。みんなある気構えをした上で来ている。そうか、お茶室のせいか、とも思った。この美術館は展示室の外に広い庭が広がり、お茶室が4つあることでも有名だ。そこでよくお茶会が開かれている。お茶会というものはおしゃれだけでなく、ある種の気構えをして臨む。そんな空気が、観客一般にまで広がってきているのかもしれない。

 展示作品はみんなこの美術館の収蔵品で、日本の古美術が中心だ。軸、屏風、襖絵のほかに、茶器や仏像、中国の青銅器も多く、現在は6,874件。このうち国宝7件、重要文化財87件と聞くと、やはり見る方にある気構えが生れてくる。

 新創成って3年半ぶりの開館なので、所蔵品から厳選した約10パーセントの優品をこの1年間に展覧する。だから1カ月ちょっとで展示を替えていくそうだ。順番はともかく、まず入った展示室に古代中国の青銅器が並んでいた。現代人にとっては意味不明の物体が、静かに並んでいる。それが見ていて気持いい。快適である。意味不明だけど、じつによく見えるのだ。ふつうこの手の物は、知識がないとよくわからないと思ってあっさり通り過ぎるのだけど、ここではじーっと見てしまう。わからない物ではあるけど、ありありと、よく見えるのだ。見ていて快適なのだ。

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