“奇想”という美のかたちを見出した 
ユニークな研究者(後篇)

美術史家 辻惟雄


ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

“学問玄人”である研究者の方々に話を伺い、学問の醍醐味、楽しさを伝える連載企画。ユニークな研究者、長い時間をかけて壮大な問題に取り組まれている研究者、学界の“星”のような研究者など、さまざまな研究者に、その研究内容や研究の道に入ったきっかけなどを伺います。ビジネス情報誌「月刊 WEDGE」との連動企画。

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伊藤若冲や歌川国芳、曾我蕭白など、奇抜でユーモラスな画風ゆえに傍流とされていた画家たちを“奇想”と いうキーワードで再評価し、近世絵画史を大きく書き換えた辻惟雄氏。紋切り型の見方を打ち破り、伝統にモダンを発見した氏は、ユニークな視点で芸術に対座 し続ける。
※前篇から読む方はこちら

高井ジロル(以下、●印) 「奇想」のあともいくつかキーワードを掲げられていますね。

『奇想の図譜』(ちくま学芸文庫)。『奇想の系譜』の後に出版したこの本では、「かざり」をキーワードにさまざまな作品を取り上げ、日本美術の特質を論じている。

辻 惟雄(以下「——」) 『奇想の系譜』を出した後、東北大学でほぼ40代を過ごしたんですが、この頃にヨハン・ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』を読んで、日本美術と遊びとの関係を考えるようになりました。

 日本文化には遊びという要素がいっぱいある。サムライの文化というと一見まじめくさって深刻、真剣に見えるけども、まじめくさった表情の中にあふれるような遊び心が隠されているんだ、とホイジンガが気づかせてくれたわけです。

 でも、彼は「美術と遊びは関係ない」と言っていたんですね。落書きみたいなものには遊びを認めているんだけど、レンブラントとかルーベンスとかドラクロワとかの重厚な絵には遊びの要素が入る余地ないと思ったんでしょうね。でも、日本の絵、たとえば「鳥獣戯画」なんて、遊びそのものですよ。ホイジンガに「鳥獣戯画」を見せたかったと思いますね。

 その後、49歳で東京大学に戻り、50代の10年間をすごしました。この間に見つけたのが、「かざり」というキーワードでした。

辻惟雄氏

 あるとき、NHKの人がやってきて、大勢の観客動員ができる派手な展示はできないかというんですね。でもデパート展だから国宝や重要文化財は使えない。当初は、南蛮屏風なんかでやろうと思って調べたんですが、他ですでにやろうとしているとわかって断念せざるを得なかった。

 弱っていたときに、雑誌で歌舞伎研究家である千葉大の服部幸雄さんが、「飾る文化と飾らない文化」について書いていたのを見た。日本には、桂離宮のように飾らない文化と、歌舞伎のように飾る文化がある、と。これを美術にあてはめてみるとおもしろいなと思いました。いざ「かざり」をキーワードとしてみると、いろいろな分野からおもしろいものが集まってきた。これならば、美術という概念にしばられることなく、日本人の生活史に即した幅広い展示ができると直感しましたね。

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