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2010年5月25日

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中西輝政 (なかにし・てるまさ)

京都大学教授

1947年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、現職。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。近著に『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』(PHP)がある。

かつてない日米関係の危機。首相の失態で国益は危殆に瀕し、
にもかかわらず野党は総崩れで、与党議員は口を閉ざしたままだ。
日本の政治は、きわめて深刻な漂流の中にある。
民主主義では政治家に、国民目線と国家観の両方が欠かせない。
しかし日本では長きにわたり、前者のみで脚光を浴びる政治家が生まれてきた。
民主党政権は、その徒花。国民目線という巧言で大局を見失ってはならない。

 4月12日にワシントンで開幕した核安全保障サミット。鳩山由紀夫首相は、オバマ米大統領と夕食会でわずか10分の„会談„をするに留まり、首脳会談はできなかった。昨年11月、東京でのオバマ大統領との首脳会談で、普天間飛行場移設問題について鳩山首相は「トラスト・ミー」と言いながら、翌日にその約束をあっさりと反故にした。このことに、米国が「裏切り行為」であるとの認識を変えていないからだ。 

 米側のこの反応は、国際外交の常識として当然のことだ。通常なら、日本人として鳩山氏を何とか擁護したいところだが、この場合は全く不可能だ。それほど彼の言動はひどすぎるからである。

 昨年12月のCOP15(国連気候変動枠組条約第15回締約国会議)でも、オバマ大統領に会談を拒否された鳩山首相は、外務省の奔走で何とか晩餐会でクリントン国務長官の隣席を確保してもらい寸時の会話を許されたのだが、その後の記者会見で「(普天間飛行場移設先の決着を先送りした経緯などを説明し、クリントン長官は)十分に理解してくれた」と発言。しかしこれは、完全に事実に反していた。その3日後に長官は藤崎一郎駐米大使を国務省に呼び出し、米側は決して「理解などしていない」と強く抗議した、と報じられている。戦後の日本外交を見ても、総理の失態によってこれほどまでに日米関係を傷つけた例はない。

揺らぐ日米関係に
懸念を抱く諸外国

 日米関係のかつてない危機に接した諸外国は、強い懸念を抱き、中にはその懸念を直接日本に伝えようとする国もある。とりわけオーストラリアやシンガポール、さらにはインドネシアやベトナムなど東南アジア各国の政府関係者は懸念を隠さず、英、仏などのヨーロッパ主要国も日本中の識者にコンタクトをとって情報収集に走っている。

 なぜ各国は、今回、日米関係にそこまで強い関心を寄せるのだろうか。今、日本人が意識しなければならないのはこの点である。「日米関係が破綻をきたす」ということは、現在の世界秩序の根幹となっている支柱の一つが大きく揺らぐことを意味するからである。その重大さは、例えば「EUが解体に向かう」ことになったり、中東で「イスラエル国家が消滅する」くらいのインパクトを与えるものだからだ。それほどに、日米安保関係の崩壊は、東アジアあるいは太平洋の現状のみならず、グローバルなバランスオブパワーを根底から変えることにつながるからである。にもかかわらず、鳩山政権は選挙のことしか念頭にない様子で、日米同盟と日本の安全保障を玩具のように弄んでいる。

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