米国ミステリーにみる日本ブランドの底力

“61HOURS” トヨタ、日産、ソニーの扱われ方


森川聡一(もりかわ・そういち)
ITバブル期にニューヨークに住んだ経験を持つ経済ジャーナリスト

ベストセラーで読むアメリカ

ベストセラーを見れば世相がわかる--知っているようで知らないアメリカの実相を知ることは、日本を考えることに欠かせない。

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■今回の一冊■
61 HOURS
  筆者Lee Child, 出版社Delacorte Press, $28.00

 日本の文化や企業が海外の人たちに、どのように受け入れられているのか分かる、というのもアメリカのベストセラーを読む楽しみの1つだ。100万部単位で売れるベストセラーであれば、そこで描かれていることは、文字通り万人が共有している思いや考えを反映しているはずだからだ。

 さて、今回とりあげるアクション・ミステリーでは、物語の随所に日本企業の名前が出てくる。現在、アメリカで売れ行きナンバー1となっている本書のなかでの、日本企業の描かれ方をみると、トヨタ自動車などのブランドがいかにアメリカ社会に浸透しているかが改めて分かり興味深い。ちなみに、本書はニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(ウエブ版5月28日付)の単行本フィクション部門初登場で第1位。退役軍人である主人公のJack Reacher(ジャック・リーチャー)が、アメリカ全土を放浪する中で、さまざまな事件に遭遇するシリーズ第14作目だ。

 乗っていたバスが事故にあったために、雪深いサウス・ダコタ州の田舎町で足止めを食った主人公のリーチャーは、地元の警察署とかかわりを持つ。小さな町にもかかわらず財政が豊かなことに疑問を持ったリーチャーに向かって、警察官の1人がその理由を説明するセリフに日本企業が出てくる。

 “We got a brand-new federal facility. We competed for it. Everybody wanted it. It’s like getting Toyota to open an assembly plant. Or Honda. Lots of jobs, lots of dollars” (p32)

 「最新鋭の連邦刑務所を誘致したんだ。競争だった。みんなが誘致したがっていた。トヨタの組み立て工場を地元に誘致するようなものだ。あるいはホンダでも同じだ。たくさんの雇用と、たくさんのカネが入る」

日系自動車メーカーのイメージ

 日米貿易摩擦で日本製自動車が、アメリカ人の雇用を奪うと批判の対象になったのは遠い昔で、今や、トヨタ自動車やホンダは、アメリカで雇用を生み出す会社として好意的に描かれる。トヨタやホンダにかわる会社名が、このセリフに入ったらどうだろう。破綻したゼネラル・モーターズ(GM)ではおかしいだろうし、韓国メーカーの名前でもしっくりこないだろう。世界市場では、韓国勢の躍進ぶりが話題になることが多いとはいえ、やはりトヨタやホンダのアメリカにおける存在感は大きい。

 次は、地元の弁護士が自家用車の中で、射殺体でみつかった際、弁護士が乗っていた乗用車について、警官のピーターソンが説明するセリフだ。

 “Infiniti,” Peterson said. “It’s Japanese. Nissan’s luxury division. That model has a V-6 engine and full-time four-wheel-drive. There are snow tires on it, all around. It’s practical, and it’s about as showy as a South Dakota lawyer wants to get.” (p117)

 「インフィニティだ」ピーターソンは言った。「日本車だ。日産の高級車だ。V6エンジン搭載で4WDだ。スノータイヤもはいている。実用的だし、サウス・ダコタの弁護士が欲しくなるほどの派手さがある」

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