高級ナイトクラブと
自殺工場に見る中国の闇


城山英巳 (しろやま・ひでみ)  時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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「白色」「黒色」「灰色」「血色」「金色」――。

 中国国営新華社通信が発行する経済専門紙『経済参考報』(5月10日付)は、中国で個人や企業が受け取る「特色ある収入」の実態をこの5色で表現したが、中国社会に潜む深い「闇」を絶妙に言い当てたものだった。

 「白色収入」とは、給与や福利など正常な収入。「黒色収入」は、賄賂や横領、窃盗・強盗、詐欺、麻薬販売など非合法手段で得た収入のことだ。

 ここまでは日本の論理でも分かりやすいが、残りの3つは中国社会独特のものだ。「灰色収入」とは、「合法と非合法の間の収入で、記録、納税、申告の対象ではない個人的な『隠秘(隠された)収入』で、学者も『白にあらず、すなわち黒』と認識している」(経済参考報)。

 この灰色収入は、「感謝費」「労務費」「講義費」「原稿料」「謝礼」などの名目で、特権やコネを持つ富裕層の間に広く浸透し、「賄賂」が形を変えたものとの批判もある。中国改革基金会国民経済研究所の王小魯副所長は2007年、灰色収入が「中国では国内総生産(GDP)の2割以上に達する」と筆者に明かし、隠されたこの収入の存在こそ、富裕層と一般庶民の間で拡大し続ける格差問題の本質だとの見方を示した。

「灰色収入の規則を設ける」と強調した温家宝

 温家宝首相も今年3月、全国人民代表大会(全人代)冒頭の政府活動報告で収入格差是正のため「灰色収入の規則を設ける」と強調していた。

 また、「血色収入」とは「他人の生命を犠牲にしたり鮮血を絞り取ったりして得た収入」のことで、「金色収入」は、「株式や先物、金などの取引で得られた収入」を指している。

 経済参考報は「『白色収入』を主たる色調(トーン)とし、社会公平を示し、社会の安定と調和を促進する」必要があると提言する。つまり全体収入のうち「白色収入」の比率を高めないことには格差問題は解決しないというわけだ。

「北京で最も高い夜」にメス

 なぜ「5色収入」を解説したかというと、中国では5月以降、格差社会の深刻さを象徴する事件が、首都北京と、改革・開放の最前線・深圳(広東省)で発覚し、民衆の怒りが爆発しているからだ。前者は「黒色」「灰色」収入を駆使した富裕層、後者は「血色」収入を貪った工場が主役である。

 米大使館や日本大使公邸にも近い北京市の大使館街近くに位置するシェラトン系ホテル「長城飯店」。その中に「天上人間」という会員制の「夜総会」(高級ナイトクラブ)がある。

 「天上人間」には「天上と下界」つまり「隔たりが大きい」という意味がある。5月11日夜、「北京で最も高い夜」と言われた「天上人間」で豪遊していた富豪たちにとってはまさに天から地に落とされた気分だっただろう。

 北京市公安局が踏み込んだのだ。その時、客の相手をする「有償陪侍小姐」(ホステス)が118人も検挙。13日付の北京紙『京華時報』1面は、公安局が踏み込んだ際にホステスらが映った写真を大きく掲載し、関心の高さをうかがわせた。

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城山英巳(しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

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