米メディアなどによると、攻撃は軍事目標に対する限定的なものになる見通し。シリア軍のレーダー・システムや防空システム、軍事施設や滑走路などが攻撃対象として取り沙汰されている。シリアに介入しているロシア軍を巻き添えにしないような配慮も盛り込まれているようだ。
巡航ミサイルは地中海上の米艦船から発射されたようだ。有人機による空爆はロシア軍の防空システムに引っかかる懸念があり慎重に検討されている。しかしいずれにせよ攻撃期間は最長数日間で、米軍がシリアに本格的な地上部隊を展開する可能性はない。
ホワイトハウスの一部には、アサド政権を攻撃することに抵抗もまだ強い。アサド政権をたたくことは、結果的に最終的な敵であるISやアルカイダ系のイスラム過激派を利することになる上、シリアに展開している米軍特殊部隊などが報復攻撃にさらされかねないからだ。
政権浮揚目論む
トランプ氏が軍事攻撃に踏み切ったのは、オバマ氏の弱腰を非難してきた手前、強力な実行力を示して前政権との違いを内外に示したいとの思惑があるからだ。その背景には発足から2カ月半になるトランプ政権の運営がうまくいかず、支持率も36%と歴史的な低さを記録しているという状況がある。
閣僚人事もいまだ4人が議会から承認されず、国務省や国防総省の幹部人事もほとんどが空席のまま。ロシア関連疑惑の暗雲が政権を覆い、連邦捜査局(FBI)がトランプ陣営とロシア当局の接触について捜査を継続中である。
政権の目玉だったオバマケア(医療保険制度改革)の見直しは身内の共和党の一部造反で撤回に追い込まれ、一部イスラム圏からの入国禁止の大統領令も憲法違反の疑いがあるとして裁判沙汰になっている。軍事費の10%増強をウリにした来年度予算も議会の反対が多く、先行きは明るくない。
トランプ氏や側近は政権がうまくいっていないのはオバマ一派が“ディープ・ステート”(国家の中のもう1つの国家)を作って邪魔しているからだと非難しているが、政権反転の見通しはない。
同氏はこのため、化学兵器を使った非人道的なシリア政府を軍事的に懲らしめることを内外に誇示することによって、政権浮揚のきっかけをつかみたいと考えているようだ。しかし、軍事攻撃に伴う予期せぬ事が起こる危険性もある。トランプ氏の政治的な賭けが思惑通りに運ぶのかどうか、予断は許さない状況だ。
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