No Science, No Business

2010年9月3日

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鹿野 司

1959年名古屋生れ。科学ライター。科学、コンピュータ、SF誌を中心に、コラム、インタビュー記事を執筆。映画,『ガメラ2』の科学考証なども手掛ける。現在、SFマガジン、NECのビジネス情報サイトWisdomなどにコラムを連載中。著書に、『サはサイエンスのサ』、『オールザット・ウルトラ科学』『狂牛病ショック』(共著)、『巨大ロボット誕生』『教養』(共著)などがある。

ヒット商品や、ビジネス上の大転換を支える科学の力を読み解く本連載。
第1回目は電気自動車を取り上げる。ガソリン車から電気自動車への大転換は、産業技術史上、もっとも起こりにくいはずの出来事だった。その象徴的存在でもある日産「リーフ」をはじめ、電気自動車という存在から見えてくるのは、次世代インフラとして電気が果たす役割の大きさだ。

科学の力がビジネス世界を変える

 人の感覚とは不思議なもので、自分が生きてきたはずの社会の変化に、意外なほど鈍感なところがある。その気になって子ども時代を振り返れば、そういえばずいぶん変わったなあと思ったりはするものの、何かが劇的に変わってしまったとまでは、なかなか感じないんじゃないだろうか。

 でも、実際はそうじゃない。

 現代の技術の発達速度は、人類の歴史上最速といって良いと思う。なぜなら、あらゆる技術の基盤である半導体の集積度の向上が、10数年で1000倍という驚異的な速度を保ったまま、半世紀も続いているからだ。

 これによる波及効果が、新しい技術を生み、新しい科学を可能にし、新しいビジネスを実現して、刻々と世界を変え続けている。
たとえば今では、何か調べ物がしたいと思ったら、とりあえずググるのが当たり前だろう。そうすれば、ネットの中にある非常に質の高い情報に、ごく簡単にたどり着くことができる。

 でも、グーグル以前は、調べ物といったら、百科辞典を引いたり、図書館や書店で適切な文献を探したり、時間も労力もコストもかかるうえに、得られる情報も今に比べると非常に限られていた。

 一冊一冊がものすごく重くて、二十何巻もある冊子体の百科辞典なんて、今では思い出すのも難しい。いくつかキーワードをたどるうちに、机や床にページを開いた冊子が何冊も散乱して、それを後から書架に戻すにも一苦労だったけれど、そんなことは今の20代の人には、想像することもできないんじゃないかなあ。

 でも、グーグルが創業したのは1998年のことだ。

 わずか10年ほどで、世界はこれほど劇的にかわってしまった。そして、知らず知らずのうちに自分の感覚も大きく変化している。

 この種の革新は、今もリアルタイムで起き続けている。その気になってみなければ見過ごしてしまいがちだけれども、変化は着実に、留まることなく進んでいる。我々は、時々刻々、それ以前の常識が通用しなくなり続けている世界を生きているわけだ。

 このコラムでは、そういった世界の変貌と、科学と技術とビジネスにまつわる何事かに注目して行きたいと思う。

ガソリン車から電気自動車へ

 さて、その第1回目のお題として、まず電気自動車をとりあげようと思う。

 電気自動車は、歴史的には非常に古くて、初期の蒸気自動車とかガソリン車などの内燃機関で動く自動車と同時期に発明されている。

日産の電気自動車第1号「たま」。今から63年前に開発され、戦後の焼け野原を走った。

 ただ、その後の内燃自動車技術の急速な発展によって、自動車としては消えていった。

 どんな技術も、いったん広く普及してしまえば、新しいものが出てきても、そう簡単に置き換わることはない。関東と関西で電気の周波数が明治以来違ったままだったり、キーボードの配列がQWERTYであり続けるように、その技術規格を前提にまわりの社会環境が構築されると、全てを丸ごと変えていくような変化は容易には起きないわけだ。

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