今回のテーマは「トランプループの罠にはまった習主席」です。ドナルド・トランプ大統領は交渉相手に対してトランプループを巧みに利用して主導権を握ります。トランプループには主として3つのパターンが存在します。本稿では、どのようにしてトランプ大統領が習近平中国国家主席をトランプループの罠にはめたのかを中心に述べます。
強いリーダー像を意識するトランプ
4月29日にトランプ政権は発足100日を迎えます。ワシントン・ポスト紙及び米ABCニュースの共同世論調査(4月17-20日実施)によりますと、トランプ大統領の支持率は42%で不支持の53%を11ポイントも下回っています。しかも58%が同大統領を正直ではなく信頼できない、52%が危機的状況で信頼できないと回答しています。
上の共同世論調査が発表されますと、トランプ大統領は即座に調査結果がフェイク(偽)であるとツイッターに投稿しました。ところが、同調査の対象となった有権者の53%が同大統領を「強いリーダーである」と認識している点に関しては評価しているのです。同大統領は強いリーダーの自己イメージにかなり固執していることが読み取れます。
4月初旬南部フロリダ州にあるトランプ大統領の別荘「マール・ア・ラーゴ」で米中首脳会談が行われました。その際、北朝鮮の核・ミサイル開発に関して同大統領は習主席に北朝鮮に対して一層の圧力をかけるように話をもちかけ同主席を動かしているという演出を行いました。首脳会談後の電話会談でも、強いリーダーのイメージを作っています。北朝鮮に対して圧力強化を行うように同主席にプレッシャーをかけて、自分が指示命令を出しているという演出をしているのです。一方大国のリーダーである習主席の立場からすれば、トランプ大統領の指示命令の下で北朝鮮に圧力をかけていると見られたくないのは当然です。
トランプループの3種
トランプ大統領はこれまで「アジェンダ設定型」「無理難題型」「意表型」の3種のトランプループを活用しています。まず、アジェンダ設定型トランプループからみていきましょう(図表1)。共和党候補指名争いの最中、トランプ候補(当時)はジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事などのライバル候補よりも先にアジェンダ設定を行っていました。その代表が国境の壁建設及びイスラム教徒の入国一時禁止です。
メディアはトランプ候補が設定したアジェンダに関して、ライバル候補に意見を求めます。彼らはトランプ候補の非現実的な提案に対してコメントを避けたいのですが、せざるを得ない状況に追い込まれていくのです。そこでコメントをしてしまうと、直ちにトランプ候補はツイッター及び集会を利用して反論したのです。その反論に関して、メディアは再度ライバル候補にコメントを求めます。彼らがコメントをするとトランプ候補は反撃に出て、ループに落とし込んでいったのです。結局、主要16人の共和党候補は消えて行きました。
次に、無理難題型トランプループです(図表2)。外交・安全保障に関してもトランプ大統領はトランプループを仕掛けてきます。同大統領は国境の壁を建設しその費用をメキシコに支払わせると公約して、無理難題を押し付けたのです。トランプ大統領はペニャニエト大統領をイライラさせると、突然電話会談を行い、今度は安心させます。ところが、その後で米政府が費用を建て替えてメキシコ政府に支払わせるという提案をしました。同大統領の立場は変わっておらず、メキシコは翻弄され外交の主導権を握られてしまったのです。