──海外には、BHPビリトンやリオティントといった「非鉄メジャー」と呼ばれる鉱山会社が存在しますが、日本の鉱山会社はどうしてメジャーになれなかったのでしょうか。やはり、製造メーカーのしわ寄せを受けてきたことが一番の原因でしょうか?
中村社長:いえ、じつは日本の鉱山会社も、2005年の時点では世界の潮流に乗るチャンスがありました。でも、世界で起きていたM&Aを日本の鉱山会社はただ指をくわえて見ていたんです。護送船団方式によって守られてきた日本の鉱山会社には危機感が欠けています。それが本質的な原因です。
本来は、1970年以降に国内の鉱山が次々と閉山し、資源を輸入しなければいけなくなった時点で海外に本格進出すべきだったと思います。でも結局、資源投資に挑戦する体力と発想がなかった為に、海外の資源メジャーから購入するという安易な道を選んでしまったわけです。
民間企業が個々に備蓄を確保している現状
──資源確保の主体となるべき鉱山会社に危機感が薄く、経営体力も足りないのだとすれば、レアメタルの安定確保は今後も難しいような気がします。
中村社長:ただ、民間企業のなかには、頑張っているところもあります。会社の名前は出せませんが、大手化学企業や非鉄企業のなかには自ら資源確保に乗り出しながら、1、2年分の備蓄を抱えている企業も出てきました。
資源の安定確保を目指している良い会社はたくさんありますが、それらの会社の共通点は、多くを語らないことです。たとえば、経産省が主催するレアメタルフォーラムなどには参加していませんし、そういった表立った動きは見せずに、「ひっそり、こっそり、しっかり」手を打っているのが特徴です。本来、資源確保とはそういったやり方をすべきなのです。
国が担うべき役割と、縦割り構造の弊害
──表向きには報道されていなくても、民間で独自にしっかりやっているところはあるんですね。では、国が担うべき役割とは何でしょうか?
中村社長:資源確保に国の後押しが必要なことは言うまでもありませんが、最も重要なのは国家としての戦略を持つことです。レアメタルの安定供給を実現するための要素には、資源外交、独自の資源探査、リサイクル技術や代替材料の開発・・・など、いろいろな分野が挙げられますが、その中で、どの分野から、どのプライオリティで進めていくかといったグランドデザインを、政治家がしっかりと描くべきです。官僚はそれを支えるためのシステムを作る。国家としての戦略がないために抜本的な対策が打てず、対症療法しか施せていないのが現状です。
──具体的には、現状どのような問題があるのでしょうか?
中村社長:たとえば資源外交を有利に展開していくうえで、備蓄は重要な要素となりますが、これについても「取り崩しすぎて減ってしまったから買っておこう」みたいな運用の仕方しかされていないんですね。ですから、まずは「日本の年間消費量の1割を備蓄として持つ」と決めるなど、国としての基準を設けることが必要だと思います。それから、プロフェッショナルな人間を起用して「安値のときに買い、高値の時に売る」というような国益に合致する運用をするべきです。なぜそれができないかというと、行政の縦割り構造の問題があるからです。備蓄を管理しているJOGMECなどが方針を決めることになっているんですが、合議制の決定メカニズムが働くために、本庁(経済産業省)からの指導があったり、最終的な意思決定は財務省だったりで、今のままでは運用に必要なスピードが出せません。
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