チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年7月7日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 

 「(両岸)経済は新たな段階に入った」――。

 6月29日、自由貿易圏の確立を目指す中国と台湾が経済協力枠組み協定(ECFA)の調印を果たした。これを受けて中国国務院台湾弁公室の王毅主任はこう胸を張った。

 ECFAは中台版FTA(自由貿易協定)と評され、最終的には貿易品目関税の「削減か撤廃」を目指すものだ。調印を済ませたいま、国会の承認を経て発効を待つばかりだが、関税の段階的な撤廃は優先分野から早くても来年1月に開始される予定だ。

中国の“譲歩” その背景には何があるのか?

 優先分野にリスティングされた品目は、台湾が全部で539品目。これに対し中国側はおよそ半分の267品目。金額ベースで見ても台湾側が全輸入額(中国側)の16%を上回っているのに対して、中国側はわずか10%強と、明らかな中国側の譲歩が見て取れるのだ。

 中国の“譲歩”には当然のこと政治的な意図が働いたと解釈された。つまり台湾取り込み作戦だ。ここ数年経済大国として台頭した中国が、その経済力を背景に台湾を呑み込もうと攻勢を強めたとの図式だ。

 もちろん、こうした流れは大枠の認識としては間違いではないのだろう。しかし、だからといって台湾の対中観がオセロゲームのように分かりやすくパタパタと引っくり返るのかと言えばそういう話ではない。

優遇策というアメを与え続けた中国

 事実、中国が台湾取り込みという政治目的のため経済面で譲歩することは今回に始まったことではない。

 インスタントラーメンの大流行に象徴される1990年代末には、台湾食品大手が中国市場で大躍進したが、この裏には台湾企業の対中進出に絡む有形無形の優遇があった。この傾向が少しずつ製造業へと進み、さらにハイテク製品へと続く流れを形作る。そして台湾を代表する企業、台湾プラスチックが警告を無視して対中進出に乗り出したことで、当時の台湾政府は大きな挫折を味わったのだ。

 96年の総統選挙に武力介入も辞さないとの強い姿勢で臨んだ中国は、逆に力による取り込みの限界を思い知った。それ以降の中国は、台湾からの進出企業に対して徹底した優遇政策を採ることでじわじわとその影響力を高めてきた。台湾企業の中国での優位は、主に運用面で発揮された。進出に際し工場周辺のインフラ整備や労働力の調達・管理、環境基準への対応、そしてトラブルが起きた場合の対処など、すべての点で他の外資よりアドバンテージが与えられていたのだ。かつての中国では進出企業が現地で思わぬトラブルに巻き込まれることは珍しくなかった。そうした問題を政策的に解決してくれるのであれば大きな優遇だ。

“準国民”扱いされる台湾人

 かつて反日が盛り上がった時期には、日系企業の現地社員は従業員を怒鳴りつけただけでも大問題になりかねなかったが、台湾企業で暴力事件が起きてもさしたる問題にもならなかった。たいていの問題は同胞として“準国民”扱いされるからだ。

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