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2010年8月2日

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羽根田 治 (はねだ・おさむ)

フリーライター。1961年埼玉県生まれ。山岳遭難や登山技術などをテーマに執筆活動中。著書に『山の遭難 あなたの山登りは大丈夫か』(平凡社新書)など多数。近刊に『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(山と渓谷社・共著)がある。

 だが、実はそこに大きな落とし穴があった。山にはたくさんのリスクが潜んでいて、一瞬の不注意や油断が命取りになってしまうこと、よって山に登るにはそれ相応の知識と技術と体力が必要になってくることを、彼らはまったく理解していなかった。かつては社会人山岳会がそうしたノウハウを初心者に教える役割を担っていたが、中高年層は組織に属することを嫌い、見よう見まねで山に登りはじめた。遭難事故が急増していくのも、当然の成り行きであった。

 今日の登山者の多くは、ただ人のあとについて山に登るだけの、自立していない“連れられ登山者”と言われている。そうした登山者を生み出してしまったのは、山岳会に代わって登山のノウハウや常識を教える機会を設けてこなかった業界全体の責任であり、またそれらを自ら積極的に学ぼうとしなかった登山者自身の責任でもあるのだ。

救助現場で活躍する官と民

 遭難事故が起きたときに救助活動に当たるのは、主に警察、消防、民間救助隊の3つの組織である。大きな遭難事故の場合は、これに自衛隊が加わることもある。一般的な遭難事故では、原則的に警察が救助活動の指揮を執ることになるが、救助要請の第一報が消防に入れば、最初から消防が救助に当たる場合もある。

 救助要請が入ると、まずどのように救助を行なうかが検討される。ヘリコプターでの救助が可能なのか、不可能なときはどう対処するか、民間や消防の救助隊員に応援を求めるかなど、いろいろなことを検討したうえで最善の方法を選択するわけである。

 救助活動自体も、原則的には警察の救助隊が主体となって行なわれる。ただし、それもケースバイケースだ。人気の高い山岳地を抱えるエリアでは、古くから民間救助隊が組織されており、その実力には警察や消防の救助隊も一目置いている。事故の状況によっては、警察からの要請を受けて民間救助隊員だけで救助を行なう場合もある。

 現代の山岳遭難救助は、機動力に優れたヘリコプターなくしては語れない。山麓から歩いて現場へ向かい、遭難者を担いで下ろしていた時代は、救助に数日間かかるのも当たり前だった。それがヘリコプターを使えばわずか1、2時間で片付いてしまうのだから、救助隊員や遭難者にかかる負担は比べものにならないほど少なくてすむ。遭難者の生存率も、ヘリコプターのおかげで格段に高まっている。

 事故が起きた地域や事故の状況にもよるが、現在は警察か消防防災の行政ヘリコプターが救助に向かうケースが多くなっている。ただ、どちらのヘリコプターも山岳救助以外のパトロールや捜査、災害対策、広報活動などの用途に使われることも多く、また定期点検や整備も行なわなければならないので、遭難事故が起きたときに必ず出動できるとはかぎらない。そんなときは警察と消防が連携をとり合って、飛べるほうのヘリコプターを飛ばすことになる。中部山岳地を中心に、かつては山岳救助に長けた民間ヘリコプターも活躍していたが、事故が相次いだこともあり、最近はほとんど出動する機会もないようだ。

「タダの行政ヘリ」
決して無料ではない

 さて、そこで気になるのが救助費用についてである。現行の救助体制では、警察、消防、自衛隊のヘリコプターや救助隊員が出動したときには、その活動は任務の一環とされるため、救助費用が当事者に請求されることはない。しかし、民間のヘリコプターや救助隊員が出動したとなると、その費用は遭難者本人もしくはその家族が負担しなければならなくなる。救助費用の目安は、ヘリコプターのフライトが1時間あたり50万~60万円、救助隊員の日当が1人1日3万~5万円前後といったところだ。

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