著者は河出書房新社に入社し、辣腕編集者・坂本一亀(ミュージシャン坂本龍一の父君)のもとで文芸書の編集者としての道を歩み始める。編集とともに「榛地和(しんち・かず)」の名で手がけた装本(ブックデザイン)は、三島由紀夫『英霊の聲』『サド侯爵夫人』『朱雀家の滅亡』、河野多恵子『男友達』、山崎正和『鴎外 闘う家長』、吉田健一『金沢』、丸谷才一『彼方へ』、江藤淳『成熟と喪失』・・・と、昭和の文学史に残る傑作が目白押しだ。
本書は12年前に刊行されて評判を呼んだ『榛地和装本』の続篇にあたる。本書でも、高橋英夫『ドイツを読む愉しみ』、小田切秀雄『中野重治』、野口武彦『江戸のヨブ』、川西政明『武田泰淳伝』、浅見淵『新編燈火頬杖』等々、装丁を手がけた本のカラー写真とともに、三島由紀夫、和田芳惠、山本健吉、浅見淵ら名だたる小説家、評論家の知られざるエピソードを綴る。とりわけ今年没後40年を迎える三島由紀夫の、自決1週間前の「暗い疲れた表情」をとらえた一文など、印象深い。