チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年8月25日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

 伊藤忠商事社長、会長などを歴任した初の民間出身中国大使である丹羽宇一郎氏が7月31日に北京に赴任して間もなく1カ月がたつ。「日本と中国は住所変更できない。1000年、2000年と隣人として生きていかなければならないので仲良く付き合う。『愛国親中』で行く」

 丹羽は赴任前からこう語り続けたが、日中間において、丹羽の言う「愛国」と「親中」を両立させることは至難の業だ。相手を「敵」か「味方」かの極端な二分論でとらえる中国の伝統的な対外戦略の中、「愛国」色を前面に出せば、「反中」とみなされ、その人物から距離を置く傾向が強いからだ。

 しかし民間大使起用は、中国通のチャイナスクール外交官が仕切って来た近代以降の対中外交において初の「実験」である。停滞する日本が、「成長する顔」と「矛盾を深める顔」という2つの顔を持つ隣の大国とどう向き合うか――。丹羽は果たしてこの難問に「突破口」を見出してくれるだろうか。

視線集まる民主党の対中協力のシンボルに

 胡錦濤国家主席が成長センターの拠点として建設を進める場所がある。

 「曹妃甸(そうひでん)」。あまり聞き慣れない地名だが、経済界を中心に日中関係者の視線はここに集まっていると言っても過言ではない。ある日中関係筋は「ここが民主党の対中協力のシンボルになるかどうかが焦点だ」とまで言い切る。

 曹妃甸工業区は「環渤海経済圏」に位置し、北京と天津に近い河北省唐山市の沿海に造成されている国家プロジェクト。鄧小平の深圳経済特区、江沢民の上海・浦東新区に続き、「循環型経済」を目指す胡錦濤が主導する政治プロジェクトと位置付けられ、鉄鋼、石油化学工業を中心とした広大な敷地に、日本企業の持つ省エネ・環境技術を導入した「中日エコ工業パーク」を造成したいと、と中国政府が盛んに日本側に働き掛けている。

 8月17日、北京・中南海紫光閣。民主党議員を引き連れて曹妃甸を視察した鳩山由紀夫前首相がこう語り掛けたことが、温家宝首相を喜ばせた。

 「曹妃甸視察はわれわれに深い印象を与えた。日中間のエコ・環境保護・省エネ分野における協力の潜在力は巨大で、展望は広がっている」

 「循環経済、エコ経済、省エネ・環境分野で、世界先進水準のモデルプロジェクトを(中日)共同で構築する必要がある」。温はこう答え、「曹妃甸をぜひお願いしたい」とまた念を押した。

失敗が許されない胡錦濤プロジェクト

 なぜ民主党代表選を控えた重要な時期に鳩山が曹妃甸視察のためにわざわざ訪中し、中国側も温家宝が登場する厚遇で迎えたのか。中国政府筋が解説する。

 「温首相は5月末に訪日した際、鳩山首相(当時)に曹妃甸プロジェクトに協力してほしいと持ち掛け、鳩山氏も前向きに答えた。その直後の鳩山氏の辞任は予想外だったが、程永華駐日大使に現地視察まで命じた。そして先の首脳間の約束に基づき鳩山氏に視察を要請したのだ」

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