いまのようなデフレの中で、10%以上のインフレなどありえないと思ってはいけない。円安が引き起こす輸入品の値上がりだけでも、私たちの懐を十分に直撃する。ガソリン価格の上昇分が、さまざまな生活必需品の価格に上乗せされ、多くの食材を輸入に頼っている日本では、肉や魚、野菜に至るまであらゆる食料品が軒並み高騰するだろう。運よく職を失わなかったとしても、私たちの生活は相当苦しい状況に追い込まれることが想像される。しかし、それだけでは終わらない。中島氏はさらにこう続ける。
「国民の生活がこれだけ厳しくなれば、政府が経済政策を最大限発動すべきですが、事態は逆になります。厳しい経済状況にもかかわらず、財政再建のために、大幅な増税と、社会保障関係費や地方交付税も含めた財政支出の大幅な削減が同時に行われるでしょう。補助金によっては支給が停止される場合もあります。仮に、現在の財政赤字44兆円を一気にゼロにしようとすれば、たとえば10%の消費税率引き上げ(約25兆円の増収)とともに、国債費を除いた歳出(71.7兆円)を3割弱(約20兆円)カットする必要があります」
増税は、言うまでもなく家計をダイレクトに圧迫する。さらに私たちの生活を根本から脅かすのは、社会保障費などの財政支出の大幅な削減だ。年金が削られ、セーフティネットである失業給付なども目減りする。これは、弱者がより厳しい立場に追い込まれることを意味する。また、教育や医療、道路や水道といった生活インフラも、補助金が減らされることで、これまで当たり前のように享受してきたサービスの質の低下は避けられなくなるだろう。
財政再建を進めても、厳しい現実が待っている
では、財政破綻を回避するために、政府が着実に財政再建を進めていくとしたら、私たちの生活はどのような影響を受けるのだろうか。財政破綻する場合に比べればずいぶんと緩い事態を想像してしまうが、前出の中島氏によれば、そうでもないようだ。
「今後の少子高齢化の進展を考慮すると、消費税を段階的に上げていき、今後15年ほどで15%程度まで上げることが不可欠です。それに加えて、欧米諸国のように、社会保障の負担・給付の見直しや年金制度の仕組み変更などを通じて自己負担や自助努力の度合いを大きくしていく必要があります」
円安やインフレ、金利の高騰などが起こらないため、倒産などによる失業率の急激な上昇は抑えることができるものの、消費税や社会保険料の大幅な引き上げによって負担が増える一方、年金などの給付が削減される構図は、長期間で考えれば財政破綻した場合と変わらない。長期間にわたって財政支出が抑えられるので、行政サービスの質の低下も免れない。私たち個々が抱えることになる負担は、対応する時間がある分だけ増え方がゆっくりとはなるものの、結果としては財政破綻する場合とそう違わないのかもしれない。
国には頼れないこの将来の現実に備え、私たちは今からどのような対策を講じることができるのか。ここでは、「財産」、「健康」、「地縁」の3つに分けて、その自衛策を紹介していこう。
自分の「財産」を守るには
「万が一、財政破綻が起きることを前提にするのであれば、外貨建ての金融資産をできるだけ分散して持つことが賢明でしょう。ただし、日本円と連動して動いている米ドルではなく、豪ドルやブラジルのレアルなど、円や米ドルと逆の値動きをしている通貨を選んでおきたいところです。また、外貨建て金融商品の他にも、現物である金やプラチナに換えておくのもひとつの手でしょう」(ファイナンシャルプランナー・浅井秀一氏(ストックアンドフロー・代表取締役))
⇒次ページ 4年に1度波を打つアメリカの景気に注目