前向きに読み解く経済の裏側

2017年8月28日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 地方自治体が、子供の医療費を補助することで、子育て世代を奪い合う動きが活発化しているようです。これは大変望ましいことです。今回は、そう考える理由をご説明します。

政府による子育て支援の予算確保は大変なこと

(Handini_Atmodiwiryo/iStock)

 少子化対策は、基本的には地方公共団体ではなく国の仕事でしょう。ここで国というのは、日本国という意味ではなく、地方政府と中央政府を区別した中央政府、という意味です。地方自治体は、少子化対策を行なっても、それによって生まれてきた子が就業するまでのコストがかかるだけで、その子が他地域に就職してしまう可能性も大きいため、「若い住民が子供を産みたくなるような支援策」を講じるインセンティブが薄いからです。

 少子化対策には様々ありますが、とにかく子供のための予算(医療費補助と保育園充実のどちらを優先すべきか、といった問題はあり得ますが)を増やすことが基本です。しかし、それは容易なことではありません。まずは財政再建至上主義の財務省が「財源は?」「子供のための予算を増やすと、少子化が止まるという証拠は?」などと聞いてくるでしょう。

 筆者としては、「少子化は国難であるから、万難を排してこれを阻止すべき。効果があるかも知れない対策は、コストを厭わず全部試みるべき」と考えていますが、そんなことを聞き入れる財務省ではないでしょう。「財源は、少子化対策で生まれてきた子供たちが将来支払う税金や年金です」と言っても、そもそも少子化対策で子供が増えるという証拠を示せないと、説得力が乏しいでしょう。

 今ひとつの大きな壁は、「シルバー民主主義」です。これは、政治家が若者の利益よりも高齢者の利益を優先する、ということです。そもそも高齢者は人数が多いですし、選挙の投票率も高いので、彼らの機嫌を損なうような政策は政治家に嫌われるのです。「高齢者向けの予算を削って子育て支援・少子化対策を断行しよう」などと主張している政治家は、次の選挙で通りませんから(笑)。

 したがって、国の予算で少子化対策を充実させることは容易ではありません。地方公共団体においても、シルバー民主主義は当然ありますし、予算の制約の中で子育て支援の予算を増やすことは、普通に考えれば容易ではない筈です。

国と地方自治体の最大の違いは「近隣自治体との競争」の有無

 日本に住む外国人は少数です。単純労働者等の流入は原則として認められていないからです。今後も同様だとすると、日本国が消滅を免れるためには、若者に子供を産んでもらうしかありません。そこで、予算折衝においては、「少子化対策の予算を組むと、どれだけ子供の数が増えるのか」が議論されます。これは、証拠を示すのも難しいですし、そもそも「少しは増える」といった程度でしょうから、予算を獲得するのは容易ではありません。

 しかし、地方自治体にとっては、子育て支援を充実させることで、「今住んでいる若者に子供を産んでもらう」以外に、「近隣自治体に住んでいる若者に、引っ越してきてもらう」という効果が期待できます。たとえば久留米大学勤務の筆者が福岡県久留米市役所に行なっている提言は、「子育て支援策を充実させましょう。それによって、福岡市で働いている若者に、久留米に引っ越してもらいましょう。そうすれば、彼らが福岡市で受け取った給料を使って久留米で消費をし、久留米の経済が栄えるとともに、住民税の収入も期待できますから」というものです。

 久留米市が欲しいのは、子供ではなく、その親なのです。久留米市には、今住んでいる若者に子供を産んでもらうインセンティブがあまりありません。子供が生まれると、行政サービスを提供しなければならず、費用がかかるからです。しかし、子育て中の若者が近隣自治体から引っ越してくるとなれば、大きなメリットがあります。しかも、近隣自治体よりも少しだけ充実した子育て支援を提供すれば、相当数の若者が久留米市に引っ越してくることが期待されます。費用対効果は抜群なのです。

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