安保激変

2017年8月29日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 29日午前、北朝鮮は同国西部から北東方向に弾道ミサイル1基を発射した。ミサイルは北海道の上空を通過し、襟裳岬の東約1180キロメートルの太平洋上に落下した。飛行距離は約2700キロ、最高高度は550キロと推測されている。政府は発射直後、全国瞬時警報システム「Jアラート」を通じて、北海道や東北地方などの住民に警戒情報を流した。ミサイルは日本海上空で3つに分離した模様だが、日本の領域への落下物は確認されず、自衛隊は迎撃措置をとらなかった。航空機や船舶の被害もなかった。

(写真:AP/アフロ)

今回のミサイル発射における「北朝鮮の狙い」とは

 これまでにわかっている情報から、今回のミサイル発射の狙いについては3つの可能性が考えられる。

 まず、中距離弾道ミサイルの技術確認である。北朝鮮は昨年中距離弾道ミサイル「ムスダン(火星10)」を、今年に入って中距離弾道ミサイル「火星12」を通常より高く打ち上げるロフテッド軌道で発射してきた。しかし、これまでのところ通常の高度で打ち上げるミニマムエナジー軌道では発射していないため、この軌道での技術確認をしたと考えられる。なお、今回発射されたミサイルも「ムスダン」あるいは「火星12」の可能性が高いが、これらミサイルは単段式ロケットとみられるため、日本海上空で3つに分離したのであれば、弾頭が複数だった可能性がある。「Jアラート」の対象が北海道から長野までと広かったのも、多弾頭が理由だったのかもしれない。そうであれば、脅威の度は格段に増す。

 次に、政治的なシグナルであった可能性が考えられる。このところ米国は、北朝鮮に対してミサイル発射の自制と引き換えに対話の用意があるという発言を繰り返しているが、北朝鮮としては現時点でミサイル発射を自制するつもりも、対話をするつもりもないことを示そうとしたのではないか。つまり、北朝鮮が米国との対話に応じるのは、対米核攻撃能力を信頼性のある形で完成させた時であり、それまではミサイル実験を止めるつもりはないという意志の表れと考えることができる。

 最後に、米国の出方を試すためだった可能性が指摘できる。北朝鮮は8月上旬にグアム沖に4基の「火星12」を発射する計画を公表したが、15日に金正恩委員長は「米国の行動をもう少し見守る」と述べ、計画の実施を保留した。北朝鮮がグアム沖へのミサイル発射計画を公表したのは、北朝鮮が弾道ミサイルを発射する度にグアムから朝鮮半島に飛来するB-1戦略爆撃機の存在を極端に恐れているからだと考えられる。B-1は、超音速でレーダーに捕らえられることなく飛来し、北朝鮮の最高司令部がある地下施設を破壊できる。今回、日本上空を通過する形でグアムを攻撃可能な中距離ミサイルを発射し、米国がB-1の展開を自制するかどうか見極めようとしたと考えられる。北朝鮮は、実際に中距離弾道ミサイルを撃つことで、グアム沖攻撃計画も本気であると米国に示そうとした可能性もある。

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