2024年11月24日(日)

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2010年9月24日

 雇用が不安定で、賃金も伸びないとあっては、消費が増えるはずもない。オバマ政権は輸出拡大による雇用創出を狙っているが、その雲行きも怪しくなっている。春先のギリシャ危機以降、欧州単一通貨ユーロが売られた反動で、ユーロ安・ドル高が進んだからだ。

 実際、4~6月期の米GDPをみても、輸入が32.4%増と1984年1~3月期以来の大幅な伸びを示した。輸出が9.1%増にとどまったことから貿易赤字が拡大し、GDPを3.37ポイントも押し下げた。

 その欧州(ユーロ圏)の4~6月期のGDPは、前期比1.0%増と年率換算で3.9%の伸びになった。中でもドイツは前期比2.2%増、年率換算で9%近い高成長で、90年の東西両独統一以来で最高の成長を記録した。一方で、危機の震源地であるギリシャは前期比1.5%のマイナス成長を記録している。

 要するに、ギリシャなど南欧の財政・金融危機を引き金にユーロ安が進んだのを奇貨として、ドイツが中国など新興国や中東産油国に自国製品を売りまくっているのだ。ドイツ商工会議所は8月9日、11年のドイツの輸出が08年に記録した過去最高水準に迫るとの見通しを示した。10年の輸出は11%増、11年も8%増と予想している。

 ドイツ連邦統計庁が発表した6月の貿易収支をみても123億の黒字と、5月の106億から黒字幅がさらに拡大している。ユーロ安でも南欧諸国の輸出は増えないが、競争力の強いドイツにとっては霊験あらたかなのだ。

 オバマ大統領もそんな欧州の動向をみて胸中穏やかである筈がない。露骨な保護貿易は控えていると言いたいのだろうが、雇用確保のためにはドル安を容認しているとみて不思議でない。そんななか狙われたのは、通貨外交無策の日本である。8月下旬になって円は一時、1ドル=83円台に上昇した。デフレ不況で体力を消耗した日本企業にとって、この円高は致命的である。

 1ドル=85円の円高が続けば、製造業が次々と国外脱出する。経済産業省が8月27日に発表した円高緊急ヒアリングの結果は、予想以上に深刻な実態をあぶり出した。製造業のうち4割が「生産工場や開発拠点等を海外に移転」、6割が「海外での生産比率を拡大」と回答したのだ。

不信が募る日本企業

 こうした企業の国外脱出が、日本国内で深刻な雇用不安を招くのは言うまでもない。そうでなくても、民主党政権が企業追い出し3点セットを実施している、と経営者は不満を漏らしていた。1実効税率40%と割高な法人税率、2製造業派遣規制など雇用規制の強化、3鳩山イニシアティブにより日本だけ突出した温暖化ガス25%削減目標だ。

 そこへ、米欧の意図を見抜けなかった通貨外交敗戦による、円の独歩高である。円高はドルやユーロに対しても深刻だが、実は企業経営者が音を上げているのがアジア通貨に対する円の上昇だ。特に近年、新興国で日本企業の強力なライバルになっている韓国のウォンに対しては、07年7月以来実に50%近い円高・ウォン安が進んでいる。

 中国も今年6月に人民元の対ドル相場を弾力化したというが、このところ再び人民元高抑制の介入に出ている。人民元が事実上ドルに連動しているということは、ドル安に伴って人民元は円に対しても下落する結果となる。かくて、円はアジア通貨に対しても、ひとり上昇する結果となっている。


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