9月24日、ドイツで総選挙が行われ、予想通り、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が勝利した。メルケル首相がさらに4年間政権を担当するのは確実である。
しかし、今回の選挙結果は少なからぬ波紋を呼んでいる。CDU/CSUは確かに勝利したが、その得票率は32.9%(27日時点、以下同)と1949年のドイツ連邦共和国成立以来の最低水準に落ち込んだ。連立相手の社会民主党(SPD)も20.5%と、これまた記録的敗北とされる。両党が失った票は、極右の「ドイツのための選択肢」(AfD、12.6%)と自由民主党(FDP、10.7%)に流れ、AfDは94議席を獲得し、ついに連邦議会進出という歴史的勝利をおさめた。FDPは前回の2013年、5%条項*を突破できず連邦議会の議席を失ったが、今回10.7%と得票率を倍増し、再び表舞台に返り咲いた。その他の左派党(9.2%)、緑の党(8.9%)がほぼ横ばいだったことを考えると、ドイツ政治が右に大きくシフトしたことが覗われる。
*5%条項:比例代表で5%以上、もしくは小選挙区で3議席以上獲得できなかった政党には議席が与えられない。
なお、26日、AfDのペトリ党首が離党を表明した。同氏の離党はかねてより党内で噂されていたが、25日、共同記者会見の席上、ペトリ党首が連邦議会AfD会派からの離脱を表明するにおよび、モイテン共同党首らがペトリ党首に離党を迫りペトリ党首がこれを受け入れることとなった。注目は今後どれだけの人数が同調するかだが、今のところ動きに力強さはなく影響は限定的とみられる。しかし、引き続き注視は必要であろう。
極右政党「AfD」が台頭した背景
メルケル首相は、その現実主義的手法により、連立相手の主張を柔軟に取り入れ党の立ち位置を巧妙に変化させてきた。そもそもCDU/CSUは中道右派の政党であり、党内には中道から右寄りまで幅広い勢力が分布する。その中にあって、メルケル首相は、中道左派にまで手を伸ばし、中道右派、中道左派を広く覆うところに党の立ち位置をシフトさせてきた。これが好調な経済とあいまって、現状維持を望む左右双方の国民に受けいけられ同党は高い支持率を誇ることになった。しかし、このことは党内右派の不満を生む。未曽有とされた難民到来はこの不満を一挙に噴出させたが、ことは党内にとどまらず極右勢力の急速な台頭につながった。今回のAfDの歴史的勝利の背景にはこういった事情がある。
しかし、ここで問題を政党の立ち位置に限定して考えると事の本質を見誤る。本質は政党のポジションというより、国民の中に充満する「怒り」である。ドイツ・シュピーゲル誌が、民衆は怒っているとして「怒りの充溢(FrÜchte des Zorns)」のタイトルをつけ特集を組んだのはそれを端的に表す。確かに世論調査を見ればこの民衆の怒りがはっきりわかる。実に、回答者の70%が「社会はバラバラになりつつある」と危惧し、また、60%が「犯罪の増加」に不安を抱いているのである(Infratest dimap)。ドイツの専門家筋は「国民の脅えが選挙を決定づけた」とする(Frankfurter Allgemeine Zeitung)。
難民問題は、トルコ政府との取決めによりその流入数が減少し、ひとまず落ち着いたかに見えた。しかし、この世論調査、及び今回の選挙結果は、事実がそうでないことを示す。今回の選挙結果を受け、CSUは難民政策の転換を強硬に主張すると見られる。CSUは、ドイツ南部バイエルン州を本拠とする地域政党だが、今回、難民が最も多く押し寄せその対応に苦慮した。難民問題は、州民にとり最も切実な問題である。同党のゼーホーファー党首は、メルケル首相に提案しつつも拒絶された、難民流入者数に上限を設けその受入れを制限する法案を改めて強硬に主張するものとみられる。いずれにせよ、難民問題が再びドイツ政治のホットなイッシューに浮上することは間違いなく、メルケル首相は難しいかじ取りを迫られよう。
しかし、何と言っても、メルケル首相がまず取り組まなければならないのは連立交渉である。