WEDGE REPORT

2017年9月27日

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花田吉隆 (はなだ・よしたか)

元・在東ティモール特命全権大使

在フランクフルト総領事、在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授などを歴任。

難航が予想される連立交渉の行方

 これまで連立相手だったSPDは既に連立離脱を宣言し、今後の交渉はFDPと緑の党の「ジャマイカ連立*」形成をめぐり繰り広げられる。しかし、事は簡単ではない。そもそもFDPと緑の党は、前者が企業寄りの自由主義、後者が市民主体の革新主義と立ち位置が大きく異なり、環境、EU、難民等、その主張の隔たりが大きい。果たしてメルケル首相はこの両党の隔たりを埋められるのであろうか。

*ジャマイカ連立:各党のイメージカラーの黒・黄・緑が、ジャマイカの国旗の配色と同じことからそう呼ばれる。

 もう一つの選択肢は、SPDとの再度の連立である。SPDの敗因は「連立の中の埋没」である。これまでCDU/CSUはSPD(2005-2009年)、FDP(2009-2013年)、SPD(2013-2017年)と連立相手を次々に変え政権維持を図ってきたが、そのいずれにおいても連立相手は衰退していった。中でもFDPは、連立発足時14.6%の支持率を誇っていたが4年後には5%を切るまでに凋落、2013年の総選挙でついに連邦議会の議席を失うはめになった。連立に参加した党は、メルケル首相の、相手の主張を柔軟に取り込む手法の前にことごとく生気を吸い取られていったのである。そもそも連立相手は「違いを出すこと」が党の生死を決する。日本の公明党が盛んに自党の成果を強調するのはそのためである。SPDもそのことはわかっていて、最低賃金や環境政策等、独自色を盛んに打ち出したが、気が付いてみるといつの間にかメルケル首相に成果を横取りされている。かくて、SPDは今回、また同じ轍を踏んだ。埋没の愚を犯したSPDが連立離脱を表明したのは理の当然といっていい。

 SPDは今後、野党として改めて党の立て直しを図る方針である。それしかないとの悲壮感が党指導部には漂ってさえいる。しかし、ここは政治の世界である。どんなどんでん返しが起こらないとも限らない。例えば、SPDがメルケル首相に大幅譲歩を要求し、それを首相が飲んでSPDがこれを自らの成果として大々的に公言できるとすれば、SPDの連立復帰がないとは言い切れない。この場合、SPDとしては福祉の充実を要求するだろう。メルケル政権下で、大方の国民は好景気の恩恵に浴したが、中にはこの恩恵から漏れた者もいる。これに網をかぶせ光を当てることができればSPDとしては大きな成果である。他方、CDU/CSUとしては緊縮財政を考えれば福祉の大盤振る舞いなどとても飲める話でないが、連立交渉が難航すれば背に腹はかえられないと判断する可能性はある。

 そもそもSPDにとり、野に下ったとして展望は開けるのか。世論は、「メルケル」対「極右」の構造にある。メルケル政権下で好調な経済の恩恵を得てきた「現状維持派」と、その恩恵から外れ、かつ、日々難民の脅威を肌で感じる「怒れる民衆」とが対峙する。両極化する国民世論の中にあってSPDが独自のポジションを見つけるのは容易でない。つまり、SPDにとり、野に下っても連立に残っても、明確な展望が描けないのは同じである。とすれば、メルケル首相から大幅な譲歩を勝ち取ったことを成果とし連立復帰に踏み切る可能性がないとは言い切れまい。メルケル首相にしても、水と油とまでは言わないが、立ち位置が大きく隔たるFDPと緑の党との連立をまとめ上げるより、SPD一党と組む方が楽である。

 独メディアの中には6党連立の可能性を指摘するものもある。6党とはCDUとCSU、SPDにFDPと緑の党、左派党である。つまり反極右戦線といったところだが、メディアが面白おかしく取り上げるのはいいとして、現実にどれだけ可能性があるのか、首をかしげざるを得ない。

 ただ、こういうことが言われること自体、今後4年間、メルケル首相の指導力低下が必至と見られていることを意味する。国民の中には「怒り」が渦巻き、連立政権の中には不協和音が絶えないとすれば、いかに「合意形成の妙手」メルケル首相といえども政権運営は容易でない。

 選挙前、メルケル首相の勝利が確実視され、この先4年間、安定した政権運営が行われるものと見られていた。選挙の結果、国民の「怒り」が得票率に表れ、更に連立の困難さが浮き彫りになったことにより、突如としてメルケル首相の前に暗雲が立ち込めることとなった。メルケル首相は、CDU/CSUが第一党の座を確保し今後4年間政権を担うことになったことは勝利である旨強弁したが、胸中はこの先の困難を思い複雑であるに違いない。
 

  
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