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2017年10月18日

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金子熊夫 (かねこ・くまお)

外交評論家・エネルギー戦略研究会会長

外交評論家。元外交官、外務省初代原子力課長、元東海大学教授。退官後エネルギー戦略研究会(通称EEE会議)を創設し、会長として現在も活躍中。主な著書は「日本の核 アジアの核」(朝日新聞社刊)、「小池・小泉『脱原発』のウソ」(飛鳥新社、11月6日発売)など。1937年愛知県生まれ。ハーバード大学法科大学院卒。

小池氏の「原発ゼロ」の問題点

 ところで、さすが小池氏の脱原発論は小泉氏のそれと比較すると、少しはましのようだが、いくつかの重大な問題点がある。例えば、氏は、選挙公約の中で、将来廃炉や核廃棄物処分などで必要だから原子力技術は温存すると述べているが、この考え自体は間違ってはいない。

 ただ、国が2030年までに原発をゼロにすると決定した途端に、これから原発技術を勉強しようとする若い研究者の意欲を殺いでしまうことは明らかだ。将来必要だからと言っても、廃炉や廃棄物処理だけではいかにも敗戦処理の印象が強く、夢や魅力がないから、優秀な研究者や技術者が育ちにくい。

 現に、日本の国公私立大学では近年、軒並みに原子力工学科を志望する学生が激減している。かつて原子力の全盛時代、工学部のトップクラスの学生が競って原子力工学科に入ったものだが、20年ほど前に東京大学が伝統ある「原子力工学科」の看板を下ろし、別の、あまりなじみのない学科名に改称して以来、全国の大学が右に倣えしてしまった。その結果原子力志望学生数が減少し、学力レベルもがた落ちというのが現実だ。この状況が加速すれば、将来やっぱり原子力が必要だとなった時に、優秀な人材が日本国内にはいないということになる。勿論、半世紀余にわたって営々と築き上げられてきた日本の世界有数の原子力技術は消滅するから、将来は中国辺りから中国製の原子炉を輸入し、中国人に技術指導を頼らねばならなくなるだろう。

英国を反面教師とせよ

 このことは、現在の英国を見れば直ぐわかることだ。かつて原子力技術の最先進国だった英国には日本からも多数の優秀な研究者が留学し、教えを請うた(日本が最初に導入した原子炉は英国製だった)。しかし、前世紀後半に北海油田が発見され、開発が進んだ結果、原子力の比重が減少し、長年国内の原発新設が無かったため、技術の蓄積がすっかり失われてしまった。

 ところが、近年北海油田が枯渇しはじめ、このままでは既存の原発がすべて寿命を迎える20年後には深刻な電力不足が起きることが明らかになり、慌てて原発新設計画を立てたものの、国内にはそのための技術も資金も無いということで、キャメロン前政権時代に、フランスと中国の力を借りて原発新設に取り組み始めた。つまりプライドを捨てて、「他人のふんどしで相撲を取る」道を選んだわけだが、その後フランスが、同国最大の原子力企業アレバ社の経営不振により余力がなくなったため、中国が資金面だけでなく技術面でも主役を演ずる、言い換えれば、中国製の原子炉を中国の資金で建設することになってしまった。

 さすがの英国でも、中国に主要エネルギー源を依存することの国家安全保障上の懸念が高まり、2016年夏、国民投票でEU離脱(Brexit)が決まってキャメロン政権が総辞職したあとを継いだメイ首相は、一旦原発計画を凍結し、全面見直しを始めた。そのため英中関係が一時緊張したが、メイ政権も結局既存計画を大筋で再承認した。他方中国にしてみれば、英国での原発新設に成功すれば、それを実績としてヨーロッパ大陸から全世界規模で原発ビジネスを拡大しようと目論んでいることは間違いない(最新情報によれば、原発新設計画がもたついている間に、英国内で新たに様々な問題が絡んで、計画自体が立ち往生している模様。ちなみに、東芝以外の日本企業も英国での原発新設計画に意欲を持っている)。

 英国は、他のヨーロッパ諸国と違って、昔から現実主義の国で、3.11事故の際もドイツなどのようにヒステリー症状に陥ることなく終始冷静に対処していた点は、立派で、日本も大いに見習うべきだと思ったが、こうした自国内のエネルギー政策や原子力政策の混乱ぶりを見ていると、この国は、むしろ「反面教師」として、少なからず日本の参考となると思われる。将来再生可能エネルギーが期待通り伸びなかった場合に(その可能性は十分ある)、やはり原子力発電が必要となっても、国内に原発技術も技術者もいなくなっていればどうしようもない。こういった点を小池、小泉両氏を含む政治家諸侯にはよくよく考えてもらいたい。

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