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2017年11月13日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞前論説委員長

産經新聞前論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 “ロケットマン”などと揶揄してきた相手にトランプ米大統領が真剣に対話を呼びかけた。11月8日、韓国国会で行った演説で、金正恩・朝鮮労働党委員長に対し、「はるかによい未来への道を提示する」と述べ、核開発断念を強く求めた。武力行使の準備を整えていることも強調したが、当面、交渉による解決を目指すという大統領の方針が鮮明になった。これに金正恩がどう応えるか。呼びかけに応じて交渉のテーブルにつくのか。拒否して新たな挑発に出るのか。いくつかのシナリオが考えられる。

 現時点でのベストは、もちろん交渉開始だ。しかし、北朝鮮と米国の立場は根本的に異なるから、ことは簡単ではない。米国は、「完全かつ再開不可能、検証可能な核開発の放棄」を求めている。北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)の核保有国として認め、北朝鮮の体制を米国が容認、保証することを要求し続けている。

(Win McNamee/Getty Images)

「核開発凍結」という妥協案も

 隔たりは大きいが、北朝鮮が真剣に交渉に望むなら、何らかの妥協案が浮上するだろう。米朝双方はこれまでもニューヨークの北朝鮮国連代表部を通じた「ニューヨーク・チャネル」を通じて接触を保ってきた。今年春には、米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表がオスロで、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)米州局長と会っている。チェ局長は北朝鮮外務省の中で、政策決定に関与できる唯一の人物といわれており、こうしたルートはきわめて効果的だ。
実際、妥協案として、米国は頻繁に行っている韓国との合同軍事演習を中止し、北朝鮮はこれを受けて、核開発を「凍結」するーという解決プランが浮上している。

 11月9日の米紙ワシントン・ポスト電子版は、ユン代表が核実験、ミサイル発射実験を60日間行わないことを交渉の条件とする方針を、シンクタンクの会合で明らかにしたと報じた。北朝鮮が最後にミサイル実験を強行した9月15日から、すでに60日近くが経っていることを念頭に置いた発言だろう。

 米国にとって、北朝鮮の「核凍結」は交渉開始の条件だけでなく、交渉の目的、得るべき物でもあることが、ユン発言からうかがえる。

 しかし、「凍結」という目標で交渉が進むかと言えば、予断を許さない。「凍結」に関して、米国に苦い経験があるからだ。1994年の米朝枠組み合意で、北朝鮮が核開発の「凍結」に同意したものの、2002年になって一方的に破棄してきた経緯がある。「今回もだまされるのか」と、米国の世論は反発するだろうし、議会はそうした妥協に同意しないだろう。 

 今回、交渉が始まった場合は、6カ国協議など多国間協議ではなく、米朝2国間の直接交渉になる可能性が強い。6カ国協議が事実上、失敗に終わった経験からだ。

 議長国だった中国が、次回も何らかの重要な役割を担おうと、干渉してくる可能性がある。中国の北朝鮮への影響力を考慮すれば、無視できず、また、最近、北朝鮮との関係を深めているロシアも独自の思惑から、やはりモノを言ってくるだろう。

 交渉開始によって、現在の緊張状態は大幅に緩和されようが、中国やロシアの動きも勘案しなければならない。日韓両国の協力も不可欠だが、両国の関係は終始、ぎくしゃくしている。こうした難しい事情を抱えて、交渉を展開していくのは容易ではない。

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