WEDGE REPORT

2017年12月12日

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 ロシアのプーチン大統領(65)は11日、シリアを電撃訪問し、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いに勝利したと宣言、ロシア軍の撤収開始を命じた。同氏は、その足でエジプト、トルコも歴訪、中東での影響力増大を誇示したが、エルサレム問題で米国が窮地に立たされている状況に付け入った国際政治の“勝負勘”に、「狡猾かつ大胆」と外交専門家も舌を巻いている。

(Eduardo Munoz Alvarez/iStock)

巧みなすり替え

 プーチン氏が今回のシリア電撃訪問を決断したのは、トランプ米大統領がユダヤ、キリスト、イスラム教の聖地、エルサレムをイスラエルの首都と認定したことに対し、中東を中心に世界各地で反米デモが起きるなど米国が窮地に押し入っている状況をにらんでのものだ。巧みな政治的計算に立った上での行動であり、鮮やかとも言える“勝負勘”だ。

 プーチン氏はシリア軍とともにISなどテロ集団を壊滅させたとし、シリア駐留ロシア部隊の「相当部分」を撤収させることを命じた、と言明した。しかし「この勝利宣言は巧みなすり替えだ」(ベイルート筋)。2015年秋に軍事介入したロシア軍が実際に行ったのは、バッシャール・アサド政権との内戦を戦っていた反政府派勢力への徹底した空爆だ。

 これにより、崩壊瀬戸際だったアサド政権は立ち直り、逆に米欧やサウジアラビアなどが援助していた反政府勢力が劣勢になって、現在はほぼ壊滅状態。ロシア軍はそもそも、ISに対する空爆はたいして実施していない。

 ISを壊滅させたのは米主導の有志連合軍であり、ロシアは補助的な役割を担ったに過ぎない。プーチン氏は反政府勢力もすべてテロ集団である、と巧みにすり替え、有志連合の成果を横取りしたと言えるだろう。しかも、ロシア軍の撤収も命じたとしたが、昨年3月にも部隊の撤収を言明しながら、実際にはロシア軍の駐留規模はさほど縮小しなかった。今回も注視する必要がある。

権益と存在感を拡大

 プーチン氏が今回の訪問で降り立ったのは、ロシア空軍の拠点であるシリア西部ヘメイミーム空軍基地。ロシアはこれまで地中海に面したタルツースに海軍基地を保有していたが、プーチン氏は、今後はヘメイミーム空軍基地もロシア軍の「常駐基地」として継続使用することを明らかにした。

 報じられるところによると、ロシアは7月、アサド政権からこの空軍基地を49年間借り受けることで合意したという。アサド大統領にとっても、ロシアの軍事力が政権を維持する上で必要であることから双方の思惑が一致した。ロシアはシリアへの軍事介入によって、軍事的な権益を拡大したことになる。

 プーチン氏はシリアからエジプト、トルコを駆け足で訪問、両国では米国のエルサレム首都宣言を批判した。カイロではエジプトのシシ大統領と会談し、エジプトの空軍基地と領空通過をロシア軍機に容認することで合意したのをはじめ、原発4基を建設する約300憶ドルに上る協定の締結や、ロシア航空機の観光直行便の再開なども合意した。

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