オトナの教養 週末の一冊

2017年12月22日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 サイバーテロ、サイバー攻撃、サイバー戦争、サイバー空間・・・・・・。現代社会に身を置いていれば、「サイバー」という接頭辞を耳にしない日はない。

 いまや現代人は、「サイバネティクス(cybernetics、制御工学)」という概念によって生み出された新世界に生きている、といっても過言ではないかもしれない。

1948年に始まったサイバネティクスの歴史

『サイバネティクス全史  人類は思考するマシンに何を夢見たのか』(トマス・リッド 著、松浦俊輔 翻訳、作品社)

 本書は、サイバネティクスの概念の誕生から現在までを、「サイバー」という語を追いつつ俯瞰したノンフィクションである。

 cyberという語は、辞書を引くと、「電脳、コンピュータの、インターネットの、という意味の造語で、cyberneticsの略」とある。

 また、cyberneticsとは、「制御工学。通信と制御に関して共通な要素を含んでいる人間・動物・機械などを対比させ、総合的に取り扱う学問。アメリカのN.ウィーナーが提唱した」とある。

 本書によると、「人間とマシンを統合する理論」サイバネティクスの歴史は、1948年に始まる。

 <制御と通信は、第二次大戦中に根本的な大変動を始めた。そのとき、この変化を捉えるべく、新しい概念群が登場した。「サイバネティクス」である。MIT(マサチューセッツ工科大学)の変人で有名な数学者ノーバート・ウィーナーが、「舵を取る、航行する、支配する」といった意味のギリシャ語の動詞「cybernan」を元にしてこの言葉を考えた。『サイバネティクス――動物と機械における制御と通信』というウィーナーの先駆的な著書が出版されたのは、一九四八年秋のこと。この本は未来についての大胆な予言に満ちていた。考え、学習し、人間よりも賢くなる自己適応する機械の未来で、そうしたことは、恐るべき数式と有無を言わせない工学用語によって信用を得た。>

 <世間はウィーナーを、新たな産業革命の預言者として称えた。第一次産業革命では、エンジンと生産用マシンが人間の筋肉の代わりをした。今度の第二次革命では、制御機構が人間の脳の代わりをする。>

マシンの「上昇」と「下降」

 著者のトマス・リッドは、訳者によると、主に情報技術(とくにそれをめぐる、あるいはそれによる紛争)の分野を専門とするイギリスの社会科学者。ロンドン大学キングス・カレッジの教授を務め、War2.0(共著、2009年)、 Cyber War Will Not Take Place(2013年)などの著書があるという。

 コンピュータの黎明期から今日までの技術史や開発秘話はこれまでにも数多く出版されているが、本書のユニークなのは、「サイバネティクス」という概念が包含する意識や思想、文化的側面に光を当てている点であろう。

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