サイバー空間の権力論

2017年10月31日

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 前回はネットフリックスを筆頭とする動画サービス戦国時代について戦略を論じた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10686)。ネットフリックスの影響は今後も続くことが予想されるが、クリエイターにとってはより好条件でコンテンツ制作が可能となるだろう。他方、それは日本の放送業界にとって優秀なクリエイターの人材流出を意味するが故に、金銭面をはじめとして多くの対応を迫られることであろう。

 我々の生活は情報サービス環境と密接に絡み合っており、どのようなコンテンツが享受可能かも環境に大きく影響される。そんな中、あたらしい情報サービスとして近年注目が集まるものに「音声」がある。最近日本で発売された人工知能を利用したスマートスピーカーは、音声操作で電気を消すといった基礎的なものではなく、我々のコミュニケーションのあり方を変える可能性の萌芽を見出し得る。今回は広く「音声」を利用したサービスについて論じたい。

iStock/chombosan

音声は「記憶に残る」

 音声について、まずはその広告効果について説明したい。2008年にスウェーデンで誕生し、今や世界60カ国以上で1億4000万人以上のユーザーを抱え、保有曲も4000万曲以上という音楽聴き放題サービスの「スポティファイ(Spotify)」。「Apple Music」や日本の「LINE MUSIC」といった競合他社は基本的に有料に限定したものが多いが、スポティファイは6000万人の有料会員だけでない、無料会員の存在が特徴的だ。

 スポティファイの無料会員は曲と曲の間にナレーションとBGMで構成される音声広告が挿入される。「デジタルオーディオ広告」と呼ばれるこの広告の特徴は、ユーザーの認知度である。スポティファイジャパンの小林哲男氏によれば、スポティファイで実施したあるオーディオ広告の認知度は89%だったという。これはエンタメ業界のディスプレイ広告(ウェブサイトやアプリに表示される文字や画像広告)の平均が59%であることと比べると圧倒的だ。つまり、音だけの広告は人の記憶に残りやすい。スポティファイではさらにどのような曲をどのくらいユーザーが聴いたかといったデータを分析することで、ユーザーに最適な広告を提示することが可能となっている(この点は前回指摘したネットフリックスにも通じるものがある)。

 海外では音声に着目している企業も多い。現状ではスマホや後述のスマートスピーカーを使ってインターネット検索を利用するユーザーは少ないが、音声広告が記憶に残りやすいことや、今後音声検索が増えるとすれば、広告音声も企業にとってチャンスとなるからだ。

 例えば酒造メーカーの英ディアジオ(Diageo)は、カクテルのレシピについて音声検索した時に、そこで使う酒の広告を入れることなどを検討しているという。ユーザーがモスコミュールのレシピを音声検索し読み上げてもらった時、最後に音声広告としてモスコミュールに利用するウォッカを、同社の「スミノフ」にしてはどうか、という広告が打てる、といった内容だ。音声はパソコンやスマホの画面のように一度にいくつもの広告は打てないが、その分1つに絞られた音声広告に力を入れることで、ユーザーへのリーチ率を高められる。このように音は記憶に残りやすいことから、ビジネスとしても大きく注目されている。

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