2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2017年12月24日

EU議長国の外相が「反EU」という悪夢

 では、その3閣僚に就任するのは一体どういう人物か。

 内相に就任するのはヘルベルト・キックル自由党幹事長(49才)。かつて、ハイダーが党首だったころのスピーチライター。自由党が繰り出す過激なスローガンはことごとく同氏の手によると言われる。つまり、名うての極右、扇動家である。防衛相はマリオ・クナセック自由党シュタイアーマルク州代表(41才)。エンジニアで元軍人の経歴。これも生粋の極右だ。

 オーストリアでは、大統領に閣僚任命の拒否権がある。大統領が判断し不適当という場合には、大統領が任命を拒否できるのだ。実際、アレクサンダー・ファン・デア・ベレン大統領は連立交渉の過程で、場合によっては拒否もありうる旨明言していた。しかし、12月18日、実際に名簿の提示を受けた大統領は拒否することなくこれを了承した。こういう大統領の対応には当然のことながら国民から批判の声が上がっている。

 さて、以上に対し、人物像が今ひとつはっきりしないのが外相に就任するカリン・クナイセル(52才)である。自由党員ではない、政治家として無名の女性。これまで外交官、ジャーナリスト等を歴任。中東、エネルギー問題の専門家という。ひとつはっきりしているのが反EUということだ。

 しかし、外相に就任する者が反EUというのは大きな懸念である。しかも、オーストリアは2018年後期にEU議長国に就任する。時あたかも、難民問題あり、英国離脱あり、ドイツの混迷あり、マクロン仏大統領の大改革案ありで、EUとしてこれ以上重要な時はない。ギリシャがいつまた火を噴くかも分からないときに、反EUの議長では、EUのかじ取りを任せるわけにはいくまい。

 さすがに、この点はクルツ党首も考えたのだろう。連立合意でEUに関する管轄の一部を首相府に移すことが合意された。その中にはEU議長国のことも含まれるという。それを聞いて、EUもホッと胸をなでおろしたに違いない。

 さて、副首相に就任するシュトラーヒェ自由党党首も、かつてネオナチ的言動で名をはせた人物である。これらの面々を閣内に取り込み、31才のクルツ氏は誤りなくオーストリアのかじ取りをしていけるのだろうか。ヨーロッパ中の視線が今、オーストリアに注がれている。

  
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