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2018年1月5日

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今井宏平 (いまい・こうへい)

日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員

2004年中央大学法学部卒業。2011年中東工科大学国際関係学部博士課程修了。2013年中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員PDを経て、2016年から現職。専門は、現代トルコ外交・国際関係論。主な著作に『トルコ現代史』(中央公論社)、『中東秩序をめぐる現代トルコ外交』(ミネルヴァ書房)など。

 12月6日、イスラエルの首都をエルサレムとすると突如発表した、アメリカのトランプ大統領。この発表は、クリントン政権以来、中東和平の仲介者の役割を果たしてきたアメリカがその役割を放棄した瞬間でもあった。当然のことながら、アラブ諸国をはじめ多くの国が反発し、国際的な問題となった。その中でも各国の先頭に立ち、エルサレムの首都認定に強く反対したのはトルコのエルドアン大統領であった。イスラム協力機構(OIC)の議長国を務めているトルコは、12月13日にイスタンブールでOICの緊急首脳会合を開催し、その会議で東エルサレムをパレスチナの首都とすることなどを明記した「イスタンブール宣言」を採択した。

AFP/アフロ

 トルコは人口の98%がムスリム(イスラム教徒)だが、政教分離を掲げてきた世俗主義国家である。また、トルコは中東地域の中ではイラン、イスラエルと並ぶ非アラブ国家でもある。こうした条件にもかかわらず、なぜトルコはアメリカおよびイスラエル批判の急先鋒になったのか。

 トルコ政府がエルサレム首都認定に強く反対した背景には次の4つの要因が挙げられよう。まず第1に、エルドアン大統領の個人的な信条が指摘できる。エルドアン大統領は一人の敬虔なムスリムとして、中東和平問題には以前から強い思いを見せてきた。2008年から2009年にかけての第一次ガザ戦争、2013年の第二次ガザ戦争に際してもエルドアン大統領はイスラエルを強く非難してきた。こうした経緯を踏まえると、今回のエルサレム首都認定に際して、エルドアン大統領がアメリカとイスラエルに対して抗議の姿勢を示したことも当然の帰結であった。

 第2に、トルコの内政の要因が挙げられる。トルコでは2017年4月16日に実施された国民投票によって、議院内閣制から大統領制に移行することが決定した。大統領制に移行するのは2019年11月に実施される大統領選挙と総選挙後である。2018年1月時点で大統領制移行までまだ1年10カ月という期間があるが、トルコではすでに大統領制移行に向けた駆け引きが始まっている。エルドアン大統領および与党・公正発展党は国民投票において、賛成票が51.4%(反対票48.6%)と想定していたよりも伸びなかったことを受け、2019年11月のダブル選挙では確実に勝利をつかむために早くも内政に注力している。公正発展党の支持層は保守的なムスリムであり、彼らにとって、エルサレム首都認定は当然受け入れられない主張であった。

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