2024年4月24日(水)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2010年12月8日

 あるいは、もし北朝鮮の指導部が本当に「限界ギリギリの線」に迫るリスクを冒したいのであれば、ソウルから40キロしか離れていない非武装地帯沿いの大規模な砲床から限定的な砲撃を行う可能性もある。

 「限定的」とは、何を意味するのか? 恐らく、2発ないし4発程度の砲撃だろう。韓国と近隣地域をパニックに陥らせるには、それで十分だ。もしかしたら、それだけで、投資家が事態のエスカレートを恐れて資金を引き揚げる資本逃避も起きる可能性がある。

 しかし、「限定的な」攻撃は、韓国と米国の指導者にとって究極のジレンマとなる。というのは、即座に直接的な軍事報復に出れば、北朝鮮政府を過度な報復に「駆り立てる」恐れがあり、危機が制御不能な事態に発展しかねないからだ。

北朝鮮リスクに中国の働きかけを期待する日米韓

 WEDGE Infinityの読者の皆さんが今月のコラムを読む頃には、米国、日本、韓国の3カ国がワシントンで2日間の協議を終え、次第に緊張を増し、相互に絡み合う自国と地域にとっての2つのリスクについて、何を言い、どんな行動を取るか決めているはずだ(注2)

 1つ目は、北朝鮮の軍事行動、大量破壊兵器および核拡散行為を抑制するうえで、中国に期待できる実行可能な行動は何か、というもの。2つ目は、北朝鮮の行動を誘発してしまうリスク、あるいは限度が一体どの程度なのか、というものだ。

注2:本稿執筆後、日米韓3カ国の外相が12月6日にワシントンで行った会談で、北朝鮮による延坪島砲撃やウラン濃縮のための軽水炉運用に抗議し、結束して対応する姿勢を示すとともに、中国が北朝鮮の挑発行為に圧力をかける役割を果たすよう求める方針で合意した。しかし、中国の態度は硬く、北朝鮮を取り巻く情勢の見通しは暗い。
 


韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領や同国の新国防相、オバマ大統領を含む米政府高官の最近の発言を見る限り、北朝鮮軍が「次に」怒って発砲した時には、韓国軍による直接的な軍事報復があり、事件の規模によっては米軍も報復措置に出ると考える相応の理由がある。

 過去の事件では、日本の軍艦は、発砲して北朝鮮の乗組員を死なせることをためらわなかった。だが、北朝鮮が延坪島を砲撃し、4人の命を奪った最近の「事件」の際に韓国軍が応戦するまで、米国も韓国も怒って反撃に出ることは一度としてなかった。今からおよそ25年前に韓国の内閣全体を狙った北朝鮮による大量暗殺事件や、今年3月の天安撃沈事件のような非道な行為に対しても、決して報復しなかった。

中国が番をすることに、再考が必要な段階では?

 では、北朝鮮を抑制するという問題を、事実上、中国に「下請け」に出すことは、同盟国にとって公正なのだろうか? あるいは、それは道理にかなっているのか? 日本と米国と韓国は国際的な制裁体制を先導し、中国の支持が必要だが、実施は各国が個別に担う国連制裁も推進してきたのではなかったか?

 少なくとも米政府に関して言えば、最初の問いに対する答えは、イエスだ。「中国は国際社会の中で北朝鮮を支援する唯一の国であり、国連制裁を含む様々な国際制裁を阻害し、制裁がフルに効果を発揮できないようにしているのが中国である以上、中国にやらせるのはフェアだ」ということになる。

 1994年の「第1次核危機」の解決以来ずっと、北朝鮮に対する外圧が成功裏に金政権の行動を和らげることがあるとすれば、圧力の源は中国しかあり得ない、というのが米国の政策の基本見解だった。日本と韓国も概ね、この見方に同意している。

⇒次ページ もはや責任を取りたがらない中国の影響力は限界か?


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