中東を読み解く

2018年1月7日

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 80都市に広がったイランの反政府デモは治安機関の取り締まりとソーシャルメディア(SNS)の封殺により下火になる見通しになった。ロウハニ大統領ら改革穏健派と保守強硬派との権力闘争が続く中、今回デモを誘発させるよう仕掛けたのは大統領と見られているが、経済の低迷や社会の不公正さに国民の不満がうっ積し、長い政情不安の始まりになる懸念も出ている。

(BornaMir/iStock)

軍、聖職者優遇に怒り爆発

 最初のデモは昨年末(12月28日)、イラン第2の都市マシャドで起こった。当初は物価の高騰に抗議するものだったが、次第に政治的な色彩を帯び、政府やイスラム聖職者の支配層を標的にする抗議行動に変質、全土に波及していった。死者はこれまでに23人に上り、拘束者は900人以上。その9割が25歳以下の若者だ。若者の失業率が30%を超えるなど、彼らに渦巻く怒りと不満が一気に噴出した格好だ。

 最高指導者ハメネイ師らが特に懸念しているのは、反体制色に染まっていったデモの政治性だ。批判が許されない聖域となってきた最高指導者を直接的に非難し、「独裁者に死を」と叫び、デモの参加者が同師の写真を踏みつけた。こうした動画がSNSで広がり、拡散していった。

 危機感を深めた指導部はデモ鎮圧のため革命防衛隊を地方都市に派遣する一方、デモ参加者の大半が使っていたとみられるチャットアプリ「テレグラム」へのアクセスを遮断した。テレグラムにはイラン人の半分以上、約4600万人が登録していたと言われている。しかし、この遮断によってデモの組織化や伝達が不能になり、抗議行動は急速に萎み、「暴動は終わった」(ジャフリ革命防衛隊司令官)状況になった。

 デモの参加者の怒りに火を付けたのはロウハニ大統領がSNSを通じて新予算の内容をリークしたことだ。そこには軍・革命防衛隊や宗教団体、金曜礼拝の導師らがいかに優遇的に予算を分配されているのかが暴露されてあった。例えば、軍の予算は前年比20%増の110憶ドルに増額され、強硬派聖職者が運営している宗教団体は10年前に比べて8倍も増えた、という。

 しかし、その一方で、予算には貧困層の一部補助金の停止、公立学校の民営化、燃料価格の値上げなども盛り込まれていた。聖職者らを優遇した予算は食料や生活用品の値上がりに悲鳴を上げていた人々を刺激した。特に卵の値段は鳥インフルエンザで鶏1700万羽が処分された影響で40%も上がっていた。

 中でも、仕事に満足に就けず、社会の不公平や低賃金に泣いていた若者を激怒させ、反政府抗議行動に駆り立てた。こうした動きは明らかにロウハニ大統領のリークが触発したものだ。危機感を深めた保守強硬派はイスラム体制支持のデモを全国で組織し、ロウハニ大統領非難を展開させた。

 今回の全土に波及したデモは2009年の「緑の革命」以来の抗議行動。09年の時は、アハマドネジャド大統領の再選に不正があったことに対する抗議行動だった。その中心はテヘランの中産階級の労働者や学生だった。しかし、今回はテヘランではほとんどデモが起きていない。

 その理由はテヘランでは、指導部が徹底した治安出動を行い、厳戒態勢を取ったこと。もう1つはデモに核となる指導者や指導グループが不在だったことだろう。ロウハニ大統領はデモ参加者の意見にも耳を傾ける必要があると同情的な姿勢を示している。しかし今後、保守強硬派の巻き返しは相当厳しいものになり、デモ参加者には重い処罰が下るだろう。

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